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23th day(フルバージョン)
23日目日記 : 二つの道(前編)
闇の中
小さな火が一つ
そして遠くから飛んでくる小さな火がまた一つ
二つの小さな火が一つに合わさり・・・・そして大きな焔が舞った後・・・
華煉がそこにいた。
ここは華煉のいつもの空間。
マナは今ここにはいない。
この空間はマナの身体と直結しているため、ここまで戻ってこればマナに異常がないことはわかる。
華煉は少しほっとした。
今、マナは遺跡外の小さな小屋にいる。
遺跡外の小さな小屋にはすでに華煉の結界が幾重にもかけられている。
炎の属性を持つマナは闇から見るとまばゆい光に見える。
マナが闇に狙われないように、魑魅魍魎に狙われないように・・・幾重にも幾重にも・・・
精緻な火の結界。
弱い力しか持たないものは結界を目にするだけで消えて行くだろう。
だが、強い力を持つ者は逆にこれだけの結界で守らなければならない何かに興味を持つかもしれない。
幾重にも幾重にもかけた結界を揺るがすほどの力はこの島では見られない。
だが、強い力を持つ者ほど、自らの真の力を隠す能力にも長けている。
結界を張ったからといって完全にマナから離れる気にはなれなかった。
だが、華煉はどうしても往かなければならなかった。
だから、華煉はマナが遺跡外のすみかについたとき・・・自らの力を分離した。
小さな力の欠片はマナの元に残る。
それが今までこの空間に漂っていた小さな火。
マナに危機が迫った時にいつでも華煉の力をこの空間に戻せるように残された力の一欠片。
力の標(しるべ)
そして、華煉本体は小さな火にマナを託し、空間を駆けた。
華煉の空間は一方ではマナの身体を通して実界へつながっている。
だが、もう一方は精霊界へとつながっている。
華煉は精霊界へと駆けた。
だが、完全に精霊界へと入るわけではない。
華煉は途中で道をそれた。
精霊界に入ってしまうと、華煉の異質さがあの方にばれてしまう。
すべての焔霊の上に立つもの。
彼の人に今の状況がばれたら、華煉は守護精霊をおろされてしまうかもしれない。
マナの身体に空間を固定することはある意味禁忌に近い。
そこまでの状況に追い込まれたら、本来はマナを無理やり掻っ攫ってでも島を出ないといけない。
島を出ることに全勢力を傾けるのが本来の守護精霊のあり方だ。
マナの意思を尊重して島に残っていることは責められてもおかしくないことなのだ。
だから、華煉は精霊界を経由せずに混沌とした境界を抜けて、目当ての者の空間に飛び込んだ。
「突然どこからやってくるんだ、おぬしは! それに・・・・・おぬし・・」
華煉をみて目をむいているのはあの聖霊。
夏のある日に花火と交換で華煉に実界へと声を送る薬をくれたあの聖霊。
華煉はその薬とマナの身体を媒体として実界へと顕現し、そしてあの島につかまった。
今の混乱の発端となったのはあの花火から。
だから、華煉は多くの知り合いの中から相談する相手にこの聖霊を選んだ。
聖霊は一瞬にして華煉の異質に気づいたようだ。
だから、華煉は何一つ包み隠さずに打ち明けた。
打ち明けなければ何も得られない。
それに信頼して相談する以上、隠すことなど何もない。
あの花火の後に一体何が起こったのかを。
薬を短冊に混ぜ込んで使った華煉
マナが短冊を燃やすことで華煉は実界へと顕現
(ここまで聞いたところで聖霊は一瞬唸ったが、さえぎることはなかった)
実界への顕現に伴い、島に囚われた華煉の空間
島と自らの空間を分離する作業中に華煉の空間にやってきたマナによる干渉
島と空間との分離の失敗
最後の手段としてすべてのつながりを断ち切って、マナの身体へと空間を固定
本来であれば直ちに島から出て空間の接続を直さないといけないと思いつつ、島に残ることを希望するマナの意思を尊重して未だに島に残っていること・・・
そして、島にあるといわれる宝玉
古い記憶の残る島の謎
聖霊はじっとすべてを聞いていた。
そして最後まで聞き終えると、促すようにこういった。
「それで、おぬしがここに来た目的は?」
「・・・・・・・あの異質な島のことを知りたい。」
「なぜじゃ?」
「マナはまだあの島に残りたがっている。危険が少ないならまだあの島にいさせてあげたい。だけど・・・あの島が危険なら・・・マナを連れ去らなくては」
「・・・・・・・嘘じゃな」
驚く華煉に聖霊はこう語った。
危険というならもう十分に危険な状態にある。
わざわざ精霊界を経由せずに境界を抜けて顕現した以上、そんなことはわかっているはず。
それでも島に残っているのだから、よほどのことがない限り島を離れる気は欠片もないのだろう。
そして、
もしも島を危険と思っているのなら、あの火喰い鳥の民のそばを離れず、力の欠片を放って儂を呼び出しただろう。
力の欠片だけを残して自らやってきた以上、現時点では島を危険だと思っていないはずだ。
儂のところにきたのは、この先どんな危険が待ち受けているかを知ってそれに備えたいと考えているだけで、その危険に自分であれば対処できると思っている。
あの異質な島は異質であるとともに一種の聖域のような空気をかもしだしている。あまりにも危険な者たちはあの島に入り込むことすら出来ないだろう。
島を出るよりもある意味では安全だと考えている。
「嘘というのは言い過ぎかもしれんが、お主はあの島に危険など全くないと思っているから・・・・・あの島を出る気など欠片もないのだろう。
おぬしは単にあの島に興味があるだけじゃよ。
精霊でありながら現実世界の物に興味を持つなど・・・珍しい
・・・実に珍しい。」
そういうものなのかしら?
華煉がいぶかしげな気配を漂わせると、聖霊はさらに言葉を続けた。
「太古の記憶を持つ島といったな。」
「え・・えぇ」
「確かこのあたりにあったはずじゃ・・・・・」
聖霊は一冊の書物を引っ張り出し、そのページをめくった。
「この本はな・・・数年前にあった宝玉を宿した島のことを記した本よ。」
聖霊がいうには数年前にも宝玉伝説のある島があった。
その島に現れた冒険者達は宝玉を探し、奪い、そろえていった。
6つの宝玉をあるものが集めたとき、天から多いな災いが降り注いだ。
星が瞬き、星の欠片が人々を叩きのめして行く。
大地は荒地と化した。
だが、島にいた冒険者達は力をあわせて大いなる災いを退けた。
そして、島は最後の力を振るって人々を思い思いの場所へと転送した。
「これはな・・・その島が最後の日を迎える前の晩に、その島の人々に届いた声を記したものよ。ほれ、見てみるが良い。」
* * *
"災いは消滅しました・・・・・本当にありがとうございます。しかしもう余力も僅かです、私の創りだした島は徐々に崩壊してゆくでしょう・・・。エージェント達も元は私の一部・・・、既に私の元に還りました。"
"おぉっと、ちょっと待ってください。私は還ってはいませんよ?お忘れですかぁ?"
"・・・榊さん。そうでしたね、貴方は還るはずがありませんね。御協力、感謝しています。"
"そうですともッ!この島の危機を初めて知ったのも、宝玉の噂を世に広めまわったのも、温泉を掘り当てたのもッ!!全て私なんですからッ!!エージェントとしてもなかなかの名演技でしたでしょうッ!?"
"えぇ・・・。何から何まで、本当に感謝しています。"
"礼なんてっ。ただ私が古代遺跡を己の命より大切にする素晴らしい探検家だっただけですよ。・・・まぁ、見返りはキッチリ戴いていくつもりですがねッ!"
"・・・知っているのですね、私もその存在は知っています。できるならそれを御礼として用意したかったのですが・・・残念ながらそれは人工物、島のものではありませんので制御できないのです。"
"いいのですよ。私は探検家なのですからッ!!"
"・・・皆さんに謝罪致します。彼に広めさせた噂、宝玉の伝説は・・・・・・全て偽りです。手にある宝玉も存在した遺跡も、私が創り出したものです。全ては先にあるこの島への災いを消してもらうために私が用意したものです。皆さんを利用してこのようなこと・・・、申し訳ありません。―――ただ・・・"
"・・・この島にはそれらの宝玉伝説に近いものが存在する、というわけですよ。まぁ、私の目的の半分がそれだったりしますがねっ!災いも消えた今、またゆっくりと探索を再開できるというもの・・・・・・―――おっと、貴方達がライバルということになりますかなっ?ゆっくりはしていられませんなッ!!"
"探索をする方は良いですが・・・・・・、探索を望まない方もいらっしゃるでしょう・・・。私では宝玉の伝説の一部のような『願いを叶える』といったことはできませんが、皆さんを島の外へと運ぶことなら、できます。―――――想い描いてください、貴方の帰る先を。この島の探索を続けるのならこの島を、そうでないのなら貴方の望む場所を。"
"私はもちろん、留まらせていただきますよ。ここからが本業ですからね。"
"皆さん本当に・・・ありがとうございました―――――"
* * *
「榊さん?」
「そうよ。この謎の男が何かを知っておるかもしれん。それにのぉ・・・ここを見てみるが良い。」
・・・この島にはそれらの宝玉伝説に近いものが存在する、というわけですよ。まぁ、私の目的の半分がそれだったりしますがねっ!
「宝玉伝説?」
「のぉ?似ておると思わんか?
宝玉伝説・・・・それに太古の記憶を持つ島・・・再来ではないとは思うが・・・」
華煉は見せてもらった資料をしっかりと心に刻み付けた。
島への災いを防ぐために用意されたいろいろな仕掛け。
「この私というのは何者なの?」
「さぁてなぁ・・・・資料が欠損しておって、今となってはわしにもわからんよ。」
そういうと聖霊は書物を仕舞いこんだ。
はじめて聞いた宝玉伝説。
それに・・・この榊という男のふざけた口調。
何か気になる・・。
華煉は考え込んだ。
そんな華煉をじっと見つめていた聖霊が口を開いた。
「・・・・おぬし・・・気づいておらぬのか?」
「何?」
「気づいておらんようじゃの・・・お主・・・・・・変質しておるよ。
あの薬を使えば現実世界の影響を受けるから、精霊も多少は変質する。
だが・・・
火喰い鳥の民に直接関わっておるためかの?
それともその島の影響なのかの?
・・・おぬし、現実世界の影響を深く深く受けはじめておるよ。」
「そうなの?」
「うむ。・・・・火喰い鳥の民は実界の者じゃから、実界におる限り、干渉は受けても変質はしないじゃろう。
実界の者は所詮実界のものじゃ。
じゃがな・・・おぬし実界の・・・現実世界の影響を受けて変質しはじめておる。
このままでは、そのうち精霊界に戻れなくなるかもしれんの。」
驚いた。
あの島にいることがマナにどんな影響を与えるかを気にしていた。
それなのに、マナではなくて影響を受けているのは私だった。
精霊界へと戻れなくなる。
それは全ての力を失うことを意味する。
焔霊である華煉は精霊界から流れる気の流れを受けて力を振るう。
精霊界へと戻れないぐらい変質したとき・・一体何が起こるのか・・・華煉にはわからない。
「私・・・どうなってしまうの?」
「・・・・・・・・・・ちょっと見せてみろ」
聖霊は華煉を見通すかのようにじっと見つめた。
聖霊の持つ真実を見切る力。
聖眼
この能力を持つからこそ、聖霊はあらゆる世界に精通することができる。
華煉が頼ったのはそのためだ。
やがて聖霊は華煉から目を離すとため息をついた。
「ふぅ・・・・・厄介じゃのぉ・・・・おぬしどうやら性が固定化しつつあるようじゃ。」
「え?」
「女性に固定化しつつある。ずいぶんと実界の影響を受けたものじゃな。」
精霊は本来性を持たない。
実体も持たない。
華煉の空間に漂っているのは純粋な力
その力をマナは人型で認識しているだけで、ある意味ではマナの目をだましているとも言える。
純粋な火の力であるからこそ、燃えやすいものや液体をあつかうのは実は苦手だ。
聖霊にもらった薬を蒸発させないために紙にしみこませたが、あの紙をあつかうのも実は大変な苦労だった。
今も華煉は大きなかがり火のように空間に漂っている。
実界では・・・・マナの身体に空間をつなげているので、かろうじてマナの体の上・・・肩の上や頭の上などに力を顕現することが出来る。
そのときの体は空気中の火の気配をよりあわせて形作ったものだ。
華煉そのものは純粋な力の塊で性などない。
なのに・・・・・
「力が固定された形を取ろうとしておるよ。
今でこそ炎のような気配をしておるが、そのうち女性体の人型で固定されるかもしれん。
思ったように力を振るうことも出来なくなり、
そのうち・・・火の力を有するヒトへと堕精するかもしれんのぉ・・・」
「・・・・・火の力を有する堕精したヒト・・・それって・・・」
「お主・・・・・・火喰い鳥の民になるかもしれん」
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