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闇と鎖と一つの焔

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  • 11/21/20:54

34th day ~Bad Ending?~

「精が出るのぉ・・・・じゃが、儂がここに居るのにすら、お主、気づいておらんようじゃの。ほっほっほ。」

不意に背後から声をかけられて華煉は驚きと共に振り返る。

「清蘭様!」

そして、直ちに焔を呼び出し、臨戦態勢を取る。
相手は少し前に自分とマナを引き離そうとした張本人だ。
ご丁寧に時限爆弾まで置いていってくれた。
油断の出来る相手ではない。

だが・・・・

「お主・・・・そこまで力が落ちておったか・・・・」

華煉の姿を見て、清蘭はため息と共につぶやくだけだった。
そう・・・華煉の呼んだ焔は確かに勢いよく火の粉を舞い上げたが、華煉の全身とその周囲を包み込むのみ。
本来の焔霊の力であればこの空間のすべてを火で包み込むことも可能なのに。

「じゃから、こんな些細なことにも気づかぬのよ。」

そういって清蘭は指をパチリと鳴らす。

空間が歪む。
清蘭が呼び出した魔鏡。
そこに映し出された光景を見て息を呑む。

「わかったか・・・・おぬしがいったい何をやったのか・・・いや、何をやらなかったのか。」

マナは・・・・バレンタインというイベントを知らなくてみんなにからかわれて困っていた。
いつものようにごくごく普通に仲間と楽しそうに過ごしていると・・・
そう、気を抜いていた。力も足りなくなっていた。そして気づかなかった。これほどの危険にマナが晒されていることに。

「あの者たちは命まで奪わないかもしれない。だが、持ち物が奪われるか金が奪われるか・・・いずれにしてもあの火喰い鳥の民の気配を有するものを奪っていくはずだ。
これが何を意味するかわかるな?」

マナが一度身につけたものを誰かに渡すとき・・・華煉はマナの痕跡を・・・目に見えるものではない、霊的な痕跡を・・・すべて拭い取っていた。
マナの髪の毛1本、羽1枚すら体から離れると同時に焼き尽くしていた。
それは今も変わっていない。
だが・・・・今の自分の力では、マナから力ずくで奪われたものを追跡し、その痕跡をすべて消し去ることはできない。
火喰い鳥の民が身につけたものを奪われるだけならいい。
だがそのアイテムを使って呪術を行使されたら?
それは類稀な魔力媒体であるその肉体を闇に生贄にささげるのに等しい。
精霊界に干渉され、世界にも多大な悪影響を与えるだろう。

それを防ぐためには・・・・・アイテムに残った霊的な痕跡はマナの魂に影響を与えやすい。
だから、その魂をその肉体から切り離してしまえばいい。
つまり・・・マナを殺して、その肉体を昇華してしまえばいい。

「・・・・しかし、おぬしがその有様では、昇華が十分に行われるかどうか。
あの男の魂を救うには業火でその肉体を焼ききり、魂に火の息吹を注ぎこみ、完全に焔霊として昇華させねばならん。そうして、残った魂の抜けた肉体をおぬしが吸収し後始末せねばならん。
だが、火の息吹をその程度しか注ぎ込めぬのなら、あの男の魂は昇華されることなく、ただひたすらこの地をさまようことになりかねん。
それにこの島の不気味な生態系。何かしらの力を受けて異形化しているもの、精神の安定を失っているものが多い。この地で彷徨えば間違いなくあの男の魂も闇に染まり、霊格が堕ちて、そうよのぉ・・・・鬼火にでもなるかもしれん。」

「・・・・・そんなこと・・・させない。」

「じゃが、このままではあの男が何かを奪われるのはほぼ確実じゃ。・・・・・おぬしが出来ぬのであれば・・・・儂があの男の命を奪って見せようかのぉ?」

「そんなこと、絶対に許さない!!」

焔が勢いを増す。
空間を焔が焼き尽くす。

「ふむ・・・・・なれば、おぬしがやるが良い。それだけの焔が呼べるのであれば、昇華できるであろうのぉ。他の者にあの男が奪われるのは嫌か?ならばおぬしがけりをつけるのじゃ。これというのもおぬしが守護を怠り、警告を発さなかったためじゃ。」

すきん。
胸が痛む。
そう、いわれなくてもわかっている。
華煉は清蘭の方を見つめ返した。
だが、清蘭は追及をやめようとはしなかった。

「お主はあの男との未来を夢見た。このまま堕精して火喰い鳥の民に堕ちても構わないと思った。そんなお主の我侭があの男を破滅に追い込んだのじゃ。」

そう・・・・堕精してもいいとおもった。
マナが無意識で華煉のことを愛しい人と呼んでくれたから。
マナが大好きでずっと一緒にいたいと思った。
例え、それが滅びに至る選択だとしても・・・同じ火喰い鳥の民として、マナの横に一度でいいから並びたかった。

これは私の我侭。
力が弱まり守護の力をなくすことで、マナを危険に晒しても・・・・それでも共にいたいと。

マナを危険に晒しても・・・・そう・・・・そう思っていた。
だが、こんな風に危険が忍び寄ってくるなんて思っても見なかった。

「これはお主の咎。お主が受けるべき罰。精霊らしさをなくし、現実世界の住人であるあの男と、この島に固執し、守護することを忘れ、自らの責任を放棄し、愛に溺れて・・・・・そしてお主は一番痛い罰を受ける。」

「・・・・・もう・・・やめて・・・・」

「あの男を輪廻の輪から外して化け物とするぐらいなら・・・いっそ殺してやるが良い。これはお主がやらねばならん。
もしもあの男が負けたなら」

・・・他の誰かがマナを殺したら、私はその相手を許せない。
だが、事態は思わぬ方向へと進んでいる。
私は世界が滅んでもマナと一緒に居たかった。
だけど・・・・マナの体が闇に染まり、その魂はあてどなく彷徨い、この島の影響を受けて狂い、そして崩壊していくなんて・・・・そんな未来を望んでなどいない。そんな未来は耐えられない。

マナを輪廻の輪に返す。
例え、今生では無理でも・・・来世へ・・・宿世へ・・・・・望みはつながれる。

清蘭様はいつのまにか火喰い鳥のナイフを手にしていた。
それを無言で私の前に差し出す。

「もしもあの男が負けたなら」

わかっておるな?

心の中に言葉が届く。
華煉は絶望的な気持ちで・・・・震えながらもそのナイフを手に取った。




◇               ◇               ◇



バレンタインか・・・・・
あと少しだな。
誰か俺にくれるかな・・・

そんなことを考えていた俺は本当に腑抜けていたのだろう。

こんな危機が迫っていることに気づかなかったとは・・・・

危険な・・・・危険な白い鴉。

俺は・・・こんなところで敗れるわけにはいかない。
もう少し頑張れば舞華たちが来てくれるかも知れない。

俺は絶望に染まりそうになる心を叱咤激励しながら・・・・・目の前に立つ3人を眺めた。

「華煉きこえるか?」

だが、返事はなかった。
最近様子のおかしかった俺の守護精霊。どうやら・・・・今日の助力は期待出来そうにない。

俺は火影の舞姫と名づけた剣を握る。
俺の守護精霊が俺に気づいてくれることを祈りながら・・・・かすかな望みをつなぎつつ、俺は剣を構えた。

「できれば・・・・・見逃していただきたいが・・・・それは無理だろうな。」

どうやら・・・・この島に来てもっとも難しい戦いを強いられるときが来たようだ。

「華煉・・・」

返事はなかった。




◇               ◇               ◇




華煉「マナ・・・・ごめんね。ごめんなさい。」

マナ「・・・華煉」

血を吐いて倒れた俺の横で華煉が実体化した。手にはいつの間にか紅瑪瑙石を再び取り付けた火喰い鳥のナイフを持って・・・。

マナ「・・・華煉?」

様子がおかしい・・・と気づいた時にはすでに華煉が行動していた。
火喰い鳥のナイフを振りかぶりそのままマナの心臓目指して振り下ろす!

・・・マナの体はピクリとも動かなくなり、華煉はマナの体の中に溶けていった。

翼が地に落ち・・・そして焔が舞い上がる。


マナ
の体は劫火に包まれた!
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