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49th day(Full Version)
久しぶりの遺跡外
湖のほとりの小屋に戻って・・・最初にマナに言われた。
「買い物に先に行ってくるといい。必要なものを先に整えて、そのあとじっくり話をしよう。」
もちろん承諾した。
いつものように火喰い鳥のナイフを持っていこうとしたら、マナと・・・清蘭様に止められた。
「今日だけは火喰い鳥のナイフを置いて行ってくれ。華煉」
どうして?と問う私の目の前に
「ふむ。この小屋の結界は、すがしいのぉ。これならば儂も降りれるのぉ。」
清蘭様が現れた。聖霊降臨という仰々しいイメージとは全くかけ離れた出現。
相変わらず見た目は若作り。だけど、その瞳は眼差しは深い深い年齢を刻んでいる。
「すまんお。華煉」
「清蘭様?」
「ちょっとな・・・あの男に儂の実験につき合ってもらっとるんじゃ。あと少し時間が必要での。すまんが、あの男はこの結界の中に置いて行ってくれんかの」
「・・・・・・・・・・マナに・・・・何をしたの。」
返答次第では・・・・絶対に許さない。
小屋の中が熱を帯びる。
髪の先から、指の先から焔が噴出しそうになる。
一触即発。
止めたのは・・・マナ。マナの声。
「落ち着け、華煉。大したことじゃない。それも含めてあとで話すから。」
「マナ。」
「遺跡外でゆっくり話そうっていっただろう?待っているから先に買い物を済ませておいで。お金にも余裕が出来たから好きなものを買ってくるといい。まだ必要最低限のものしか買い物をしたことがないだろう?いろんなところに行っておいで。
・・・そうだな。華煉が何に興味があるのか知りたいから、何か一つ自分の欲しいものを買っておいで。」
「わたしの欲しいもの?」
「あぁ。華煉のことがもっと知りたいから。華煉が何を美しいと思い、何を楽しいと思い、何を欲しいと思うのか知りたい。
だから、華煉が欲しいと思ったものを買ってきて、俺に見せてくれないか?」
「マナ、本当に私から離れて残って大丈夫?」
「あぁ、それに夏祭りもあるんだろう?いろんな人を見ておいで。帰ってきたら俺にも外の様子を教えてくれ。」
「儂も外に行ってみたいが、この小屋の外には顕現出来そうにないのぉ。この小屋の守りをしておいてやるでの。」
マナを結界の外に出せないような状態にしておきながら、守りをしておいてやるという清蘭様の言葉はちょっと気に障った。
だけど・・・マナが望むなら・・・私のことを知りたいのなら・・・。
「じゃあ、急いで行って来るね。必要なものと・・・私が欲しいと思うものを買ったら帰って来るから。」
「行っておいで。気をつけて。」
「儂がついておるから、大丈夫じゃぞい。ゆっくりいってくるといい。」
ゆっくりいってこい??・・・・私は絶対に短時間でもどって来てやると決めて小屋を飛び出した。
◆ ◆ ◆ ◆
「清蘭、俺に何が起こった。」
そういうマナの姿はひどく薄れてゆらゆらとゆれている。
存在があまりにも薄れてあやふやになっているのだ。
過去との邂逅。
時間回帰。
何度も何度も自分の魂を宿した生を見つめた。死を見つめた。
同じ魂を持った生死を幾度も見つめたから・・・・だから、自分が薄れている。
魔法陣を多重に重ね、結界を張ったベッドから動けない状態。
「・・・・今のお主を華煉には見せたくないのぉ・・・・」
儂が燃やされるでの。あの娘もはねっかえりというか、じゃじゃ馬というか、・・・困った娘じゃからのぉ
清蘭がブツブツと呟いている声もひどく遠い。
手を見つめてもゆらゆらとゆれて・・・指の先、手首、肘・・・・そして目に入る刺青。
「焔齎印・・・・・これに何の意味があるんだ・・」
「何か気になることでもあるのかの?」
「何度も何度も死を見た。いつもいつも血にまみれた焔齎印を見た。俺は・・・ずっとこの紋を選んでいる。」
少女が、青年が、少年が、・・・いつも燃え上がり昇華された。腕にはいつも同じ刺青。
いくつもの死を思い出すと、この刺青がとてつもなく不吉な物に思える。
そして、その刺青は、俺の体・・・・つまり華煉の器にも刻まれている。
また、同じことを繰り返すのか?
そのとき残酷な死を迎えるのは俺なのか・・・それとも・・・・
華煉は頑張っているし、宝玉伝説に縋っているようだが・・・・魂だけになり、このナイフに封じ込められた俺が実体を持つことは考えにくい。
ならば、今生であの残酷な死を迎えるのは俺ではないんじゃなかろうか?
「その刺青にはのぉ・・・特殊な意味があるんじゃよ。」
そういえば過去に遡った時に誰かが俺にそんなようなことを言っていた。
この印の意味・・・
「何度も残酷な死を迎える不幸な印なら、いっそ書き換えてしまう方が・・」
「いかん!それだけは絶対にならん!」
一喝する清蘭に俺は驚いた。
ただ思いついたことを口の端に述べただけなのに。
「火喰い鳥の民を守護する守護精霊はある程度の確率で堕精する。堕精した守護者は火喰い鳥の民を守るには弱すぎる。だいたい、堕精した精霊も火喰い鳥の民になるのだから、危険この上ない。そんな不安定な事態を我ら精霊族がそのまま放置するとでも思うたか?」
確かに火喰い鳥の民と守護精霊のあり方は不安定だ。
「3回の成人儀礼 火の儀式、炎の儀式、焔の儀式のときに刻まれる紋は保険じゃよ。その紋はさらに高位の精霊の守護を受けることを意味している。
お主の選んだ紋・・・焔齎印は焔を齎(もたら)す印。意味する高位精霊も焔霊・・・つまり」
まさか・・・・
「焔霊王の印なのじゃよ。華煉が堕精すると同時にお主等は焔霊王の守護下に入っておる。」
「莫迦なことを。それなのにあれほど無残な死に様を何度も繰り返したというのか?」
俺は清蘭の発言を即座に否定した。
俺の前世、前々世、・・・何度も繰り返された転生。
そのほとんどすべてが血塗られていた。
守護精霊が堕精したあと焔霊王の守護下に入ったと言うのならば、あの残酷な死に様をどう考えればいいというのか。
頭が痛む。思い出すだけで・・・。
気づくと自分の手が透けて見える。頭が痛い。
「くぅ」
「マインドスナッチ、揺らいでおるぞ。マインドスナッチ。今は余計なことは考えるでない。マインドスナッチ」
清蘭は何度も俺の名を呼ぶ。
俺が見てきた多くの前世に押しつぶされないように、「俺」の存在が揺らがないように、何度も「俺」の名を呼ぶ。
何度も名を呼ばれ、俺は少し安定した。
「清蘭」
「なんじゃ?マインドスナッチ」
「華煉を一人で行かせて本当に大丈夫なんだろうな。」
「うむ。儂はお主のそばについておらねばならんのでのぉ。緋魅をつけておる。気にするでないぞ。マインドスナッチ」
華煉のことを妹のようにかわいがっていた焔霊。
彼の焔霊なら華煉を守りきってくれるだろう。
「清蘭」
「なんじゃ?マインドスナッチ」
「俺がイールだと知っても、あんたは変わらないんだな。」
「余計なことは考えるなと言うたであろう?また揺らぎはじめておるぞ。頼むから華煉が戻る前に安定するように自分に集中してくれんかの?マインドスナッチよ。」
華煉が戻るまでに・・・。
そうだな。
華煉が戻るまでに自分をしっかり取り戻さなければ。
俺は何度も「俺」の過去を思い出し、俺の名を唱え、自分を確立させようとした。
華煉が戻るまで2刻といったところだろうか?
それまでには・・・・
◆ ◆ ◆ ◆
そして・・・・夜になって、俺の体が安定した頃になっても・・・・華煉は戻らなかった。
「清蘭!本当に華煉は無事なんだろうな!」
「あぁ、大丈夫じゃ。どうやら街のそばの小屋におるようじゃの。」
「市場のそばの小屋・・・・」
そこは俺が少し前に選んだもう一つの小屋
まだ何も置いていないが、そのうち、そこに料理道具を移したいと思っている。
俺は料理が出来ないし、華煉もどうもセンスがなさそうだから。
ここには遺跡から持ってきたものだけを置くようにしたいから。
「どうして・・・・あんな場所に・・・」
思い出す過去。
血まみれの焔齎印が目に焼きついている。
「華煉・・・無事に戻ってきてくれ・・・」
◆ ◆ ◆ ◆
華煉の町での行動は・・・・http://550and1516.blog.shinobi.jp/
◆ ◆ ◆ ◆
「マインドスナッチ、少しは休め。また揺らぎはじめてしまうぞ。」
「清蘭・・・・華煉がまだ戻らないんだ・・・」
「ぅっ!そんな雨に濡れた子犬みたいな目でこっちを見るな!華煉はもうあっちの小屋を出てこちらに向かっておるわ!」
そういわれても俺は少しも落ち着けなかった。
華煉が一晩戻ってこないなんて・・・・
緋魅さんがついているから大丈夫だろうとは思うけど・・・
だが、清蘭の言葉を裏付けるように、それからほんの少し経って・・・・・小屋の結界に誰かが入ってきた。
「マナ、ただいま。ごめんなさい。遅くなって・・・・・マナ?」
「華煉・・・」
「華煉、マインドスナッチと呼べ。今その略称で呼ぶな。魂が揺らぐ。」
そう・・・俺の前世を遡る中、俺は真那と呼ばれたときが確かにあった。
マナと呼ばれると、「俺」の意識は過去の「真那」に潰されそうになる。
「清蘭様・・・・マナに何が・・・」
「だから、その名で呼ぶな。マインドスナッチと呼べ。お主が心配かけるから魂がまた揺らいでおる。
名を呼んで存在を確かなものにしないと危険じゃ。」
「マインドスナッチ?」
華煉が俺を呼ぶ。
そうだ。
それが「俺」だ。
「華煉、遅すぎだ。話を聞きたいが俺は休む。起きたらきっちり聞かせてもらうからな!」
一晩寝ずに待っておったのじゃよ・・という清蘭の声を遠くに聞きながら、俺はベッドの上で眠りについた。
精神的な疲労はピークに達していて・・・・俺は・・・・
◆ ◆ ◆ ◆
「久しぶりの遺跡外でマナとたくさんお話できるはずだったのに・・・」
そういいながら華煉は久々に紅瑪瑙石の中で眠るマナの頬にそっと手を置いた。
ベッドのそばにはたくさんの魔法陣の残滓。
清蘭様がどれほど大きな術式を駆使したのかが伺われる。
「清蘭様・・・・マナが起きたらきっちり説明していただきますからね!」
だが、疲れ切っていたマナは出立の時間まで目覚めず・・・・華煉はため息をつくと、そっとマナの頬に口づけて紅瑪瑙石から外へと出て行った。
「ふむ・・・華煉が名を呼ぶとさすがに安定したようじゃの。げんきんな奴じゃ。マインドスナッチめ。」
だが、ちょうどいい。
マナは自分がイールだったといった。だが、何か様子が変な気がする。
もう少し調べてみないとなるまい・・・
清蘭はマナの寝顔を見ながら何かを考え始めた。
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