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ファンタジー・ア・ラ・カルト(1)
冬の海には二種類ある。
透明な空気が魅せる青い空、夏とは違う透明な日差しの穏やかな海
そして、
冷たい風、暗い雲、暗い空に包まれ、寒さで凍えそうな身を切るような冷たい海
この日の海は後者だった。
冷たい風の舞う海岸
島でも人気のない辺境の地
海で生活している者たちが細々と漁をする。
だが、漁は早い時間に終わる。
今の時間帯は海岸にも人はいない。
その地を一人歩く。
彼は海が好きだった。
どちらかというと夏の日差しと入道雲、明るい海が好きだった。
だが、冬の海だって嫌いではない。
彼は生まれたときから海に生きる者だから。
赤い髪をなびかせながら、まっすぐ海を眺める。
冬の海であっても目を輝かせて。
あとからやってきた男はそんな背を見つめて思う。
この島に来て一回り大きくなった。
戦い、ボロボロになり、時に襲われ、敗れた悔しさを声に出して荒げる。
そのすべてが経験になる。
本当に大きくなった・・・・・
海を見ていた視線が海を離れて後ろを振り返る。
「何をぼ~っとみてやがるんだ?」
感傷に浸っていたため、一瞬言葉に詰まる。
「着いたんなら、早く声かけろよ。こんなところで突っ立ってたら寒ぃだろ。」
そういいながらこちらに歩いてくる。
ここで待ち合わせをしていたから。
「スズは?あいつもくるんだろ?いねぇのか?・・・・・おぃ、何をぼ~~っとしてるんだ?おい、しっかりしろよ」
「若・・・・・・・・」
「どうした?凍えちまったのか?・・・仕方ねぇな。お前は寒さ・・というか気温の変化に弱いんだったな。
こいよ。あっちにうまい店があるんだ。フェンもあっちにいる。マジョもだ。
あったかいもんでも食って、話はそれからにしようぜ、な!」
そういって肩を叩くと、ついてこいというかのように歩き始めた。
その背は一端の男になっていて・・・・・それはある意味寂しい光景だった。
育った者はいつか手の中から飛び出していく。
狭い世界で守られる者も、いつか自らの力で広い世界へ飛び出していく。
複雑な思いを抱えながら、それでも・・・・
ダナスはついて行く。
さなぎが蝶になろうとしている。
その一瞬に寂しさを感じながら。
辺境の浜辺 レッド・ロック(1753)さん & ダナス・マルシェ(1845)さん
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