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闇と鎖と一つの焔

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  • 11/22/10:44

43日目の日記補完

長い長い戦闘の間・・・ずっと意識はこの場になかった。

ただ聞こえたのは・・・・心に響いてきた叫び声。

大地の加護を受けたエゾリス達がその場を離れるまで、戦闘はずっと続いた。

はじめて引き分けた。

相手が引いてくれた。

命を奪わずに済んだ。

だけど・・・・だけど・・・・長い長い戦闘の代償は?

少し前からマナの声がまた聞こえなくなった。

感じる波動は清蘭様ともう一人・・・・

「・・・・・・・緋魅?」

なぜ?

どうして?

歯がゆい。

あの小屋に戻らなければこの石の中で何が起こっているのかわからない。

この手におさまるナイフの中・・・・紅瑪瑙石の空間で一体何が起こっているの?

「マナ・・・清蘭様・・・緋魅・・・・・何をしているの?」

またしても目の前にエゾリスが立ちふさがる。

ベアさんとトーキチローさんがゆっくりと戦闘準備に入る。

白虎隊との練習試合もある。

・・・・私は心をナイフに残したまま、ゆらりと剣を握って立ち上がった。




◆              ◆              ◆

 

「マナ・・・清蘭様・・・緋魅・・・・・何をしているの?」

小さな声が朦朧としかけた俺の意識を取り戻させた。
俺の体は半ば清蘭と緋魅さんの力で侵食されている。
体といってもずっと肉体に慣れ親しんできた俺が無理なく意識出来るように肉体のように見えているだけで
・・・・この場にあるのは俺の魂のみのはず。
侵食されているのは俺の魂だ。
俺は抵抗する。
意識を飲み込まれてはいけない。
力負けするとしても、可能な限り抗ってやる。

生まれた時に干渉された。
俺は生まれる前に根こそぎ火の加護を奪われた。
火の加護を奪われた俺は・・・・・卵を抱いていた母親から火の力を奪ったらしい。
火喰い鳥の民として生まれるために。
俺の母が短命だったのは、俺を産んだため。
すべては俺が干渉を受けたため。

生まれたあとまで干渉されてたまるか!


「清蘭」

ふと気がつくと声が出るようになっていた。
俺の声を封じる力を解いて、すべての力を俺の魂を侵食するために使い始めたらしい。
返事はない。
侵食される気持ち悪さ、絶叫したい思いを抑えて語りかける。

「あんた・・・本当に・・・俺に干渉するのが好きだな。・・・・・・俺が生まれる前・・・・・・・・火の力を奪った聖霊って・・・あんただろ?・・・くっ!」

俺を侵食する力が強まる。
図星か・・・・


「おかしいんだよ!聖霊がヒトに関わろうとするなんて!いくら華煉と親しくても、何の縁もない俺のところに頻繁にやってくること自体がおかしいんだよ!」

「うだうだとくだらないことでうるさい男だね。本当に。」


一息に叫んで息を乱す俺に緋魅さんが冷たい目を向ける。
少しずつ、少しずつ侵食してくる光。
緋色に包まれた光


「貴女は余裕なんだな・・・・・・・清蘭は話す余裕も・・・・・なさそうなのに。」

俺の方を睨みつける焔霊。
清蘭は力を制御して余裕なさそうにしているのに、この女性は笑みさえ浮かべている。

「私が揮っている力は華煉の「火」の中和のみ。華煉の結界をこじ開けている力もお前を侵食している力もすべて清蘭様の御力。火の力の弱いお前に私の力はそれほど浸透しない。」


そうか。
ならば・・・

「清蘭、あんた、何を考えている?・・・・・なぜ・・・・・・俺に話さない?・・・・・・・・俺に話したら・・・・・・俺が拒絶するようなことをしようとしているのか?・・・・・・それなら・・・・・・・俺はずっと抵抗し続けるだけだ。」

力がふっと緩む。
ようやく清蘭が俺の方を向いた。

「何を考えている?」
「何を考えておるんじゃ?」

俺たちは同時に同じような疑問を口にした。

苦笑

空気が緩む。
俺を浸食していた力が引いていく。


「清蘭様!」
「帰るぞ、緋魅。・・・・・・おぬしにはどうも敵わんな。出直すわいな。」


そういうと緋魅さんと清蘭はふっとその場から消え去った。
後に残された俺は・・・・・・

「華煉」

ようやく名をつぶやいた。
名を呼べば、華煉の力が強まることは知っていた。
清蘭と緋魅さんがどれほど力を入れたところで、俺が華煉の名を口にすれば簡単にはじき返せただろう。

俺はそうしなかった。

清蘭・・・・・あんた、早く気づけよ。
俺は甘いからな。
身内と認めた者にはとてつもなく甘いから・・・・あんたは力業じゃなく、俺に話せばよかったんだ。
俺に何をしたかったのか。

俺はあんたが俺と華煉のためを思ってしてくれることなら、何でも受け入れるつもりなんだ。
それが例え嘘で、俺に取り返しのつかない害を与えることだとしても。
あんたは俺の意識の中では、もう俺の身内なんだ。


「華煉、俺は大丈夫だから。清蘭と緋魅さんはいなくなったよ。」


また来るかもしれないけど、そのときはまた別の会い方をするだろう。

 

◆              ◆              ◆

 

「フレイムリッカー!」

この体に焔を纏う。
それは私に力を与えるはず。

そのとき、かすかな声が聞こえた。

私は微笑む。

火の力よりも何よりも私を力づけるのは、たった一つの言葉。

少し焦っていた心が落ち着く。

また、声が聞こえる。

私はまた微笑む。

もう怖いものは何もない。

マナが無事なら、何も怖いものなどないから。


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