忍者ブログ

闇と鎖と一つの焔

NEW ENTRY

(05/12)
(11/19)
(11/13)

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

  • 11/29/04:45

最後の御題 空に知られぬ雪(~第二章)

更新前の暇つぶしのはずなのに。更新前に書けなさそうだ。←これはなくなった。←嘘でした

12/14 1:10 暇つぶしのはずが10日以上かかって完結
のはずが・・・・・なんと!

エラー:記事投稿時に下記のエラーがありました
  1. 追記文の文字数が多すぎます(64000byteまで)

まじっすか!
泣く泣く第三章から先を別の文章に分けます(涙
なので、すでに第三章、第二節まで読んだ人は一つ下の文章のそれも途中からでOKです。


12/9 23:39  第三章 第二節までアップ
第三章の前に横線を引張っておきますが、前に読んだ人は第二章第四節まで戻って下さい。

12/8 
お待たせしています。
いや、筋は出来ているんですよ。あらすじは。
でもね。ごめん。プロットは甘かった。
何が甘かったか・・・・量が。

現在一般公開分では 序から始まって 一節から四節まで書いて、五節目で挫折していました。
でも、裏でせっせと書いています。
なのになぜアップできないか。

それはですね・・・・予定では六節で終わるはずのあらすじ・・・違ったんです。

今まで書いて来た 第一節から第四節を第一章とすると挫折した五節だけでこれ以上の分量があります。
そこで第五節を第二章に格上げしたとしてプロットを再見直すると・・・
なんと予定していた第六節も同じぐらいの分量あるじゃないですか!

はい。今までの分を第一章として第三章まで続きます。
要するに今までアップしていた分の3倍以上あります。

自分でも無茶振りしたあらすじだなとはおもっていたのですが・・・現在裏で書き進めていた第二章、第三節時点で12000字超えています。
わぁ~い、これでもまだ中間超えたところだよ。

間違いなく20000字行きます。
400字詰め原稿用紙50枚だって。
わ~い。どこが更新前の暇つぶしなのさ。

いや、洒落じゃないよ、これ。
間違いなく文字読むの苦手な人は読まないね。

とりあえず今書けた第二章 第三節までアップ 12/9 1:30
未校正 誤字脱字 おかしな表記きっと多数(マテ 

一応折り返し地点は過ぎました。

いろんなところで捕捉されてるけど、それも全部書きあがってから反応
赤い人は頑張ってます(汗

前に読んだ人は第二章からです。第二章の前に横線引張っておきます。

キャラ選定開始 12/2 2:08
キャラ選定完了 12/2 2:17
口調調査完了 序 書き始め 12/2 2:30
続きは朝10時以降に記載

一・・・・・再開12/2 10:16 まだ更新終わってないので口調見直しは別途実施
二・・・・・12/2 12:23開始 他のゲームの仮更新をしながら書き進め中
三・・・・・12/2 13:21開始 はてなアンテナが予想以上に高感度だったので一気にアップに切り替え
四・・・・・12/2 14:00一時中断 14:45再開 三節書き足し 
ついでに大雑把挿絵を10分で書く。
挿絵をアップロードしただけで、その画像を入れた記事を投稿していないのに捕捉する はてなアンテナ の高感度に驚く。12/2 17:27終了(第四章が大難産で3時間かかったってこと) 
五・・・・・・着手しはじめて、うまく書き進めずにくじけてます。←いまここ

長いよ!
章っていうほど量ないね、節だね。直しておこう

最後だから自分にめちゃめちゃ無茶振りした。

最後のお題は「空に知られぬ雪」
更新後に序文の口調を直す予定。

TB/RSSのPING送信をしない設定にしているのに、はてなアンテナに捕捉される・・・ごめんなさい。

 



 


タイトル:「空に知られぬ雪」

-序章-

旧知の女傭兵と約した。
久しぶりに互いの刃を交えようと。

恭平の獲物は短剣。
女傭兵の獲物も短剣。
互いに似たような技を持つ。
ともに戦場に立つものとして容赦の無さも変わりなし。
勝負は・・・ほんの少しの読みの差で決まる。

そんな勝負の前だから・・・気が高ぶっていたのかもしれない。
だからこそ、気がついた。
かすかな・・・

気がついたのは二人同時だったかもしれない。

一瞬だけ二人息を呑む。
何ものかの気配に。

目の前の相手と自分の琴線に触れた謎の相手。

だが、同時に同じ結論に達する。
戦闘続行。

目の前の相手を噛み砕くのが先。
目の前の相手を叩き、生き残るのが最優先。

共に愛用のナイフを抜き取る。
だが、女傭兵は恭平のワイヤーに、恭平は女傭兵の投擲用ナイフに・・・・それぞれ気を放ち続けている。
一瞬の差で決まる勝負。主武器だけで勝負が決まるとは限らない。

静寂な静寂なときに・・・また何かが互いの琴線に触れる。
それを合図に恭平は走った。
彼女もまた。

一瞬の気を抜くことも出来ない戦いが今まさに始まる。



第一章.琴線に触れる者


-一:気配を辿って-


右腕で左肩を押さえる。
ちょっとした油断で切りつけられた左肩。
浅いが血は未だ止まらず流れ続けている。

だが、息は荒くない。
傷も浅く、手を当てて押さえていればそのうち止まるだろうと思われた。
気を抜く前にもう一つどうしても確認しないといけないことがある。

先ほど二人の琴線に触れた者。

女傭兵は連れの男と共にすでに去った。
彼女も気にならなかったはずがない。
だが、それ以上動くことをあの連れの男は許さなかった。
あの男であれば・・・・・・あれほどの男であれば、彼もまた何ものかの気配を感じたはず。
だが、男が選んだのは撤収。
それもまた一つの判断だろう。

恭平は相手を探し、草地から森へと足を踏み入れる。
遺跡内ほどではないが、動物たちの気配を感じる。

その中にあって、やはり異質な気を放つ何か。

近づくに連れて少しずつ気が大きくなっていく。
危険は感じない。

そこまで読みきったところで、パウチの中から簡易の医療キットを取り出し傷の手当てに入る。
このまま血臭を放ちながら森の奥まで進んでいくのは
・・・危険とは言わないが厄介なことになりやすいと判断したようだ。
森の奥からは何頭かの動物の気配が感じられる。
微弱で異質な気配を追っている時に、血の臭いにつられてやってくる野獣の相手をするのは避けておきたい。

傷跡の状態を見て軽く舌打ちする。
浅いと言っても抉られていないというだけで、まっすぐ入ったナイフの傷からは未だ鮮血がにじみ出てくる。
傷薬を塗りこみ、固めるようにガーゼで押し当て、上からさらに包帯で固定する。
左腕の動きが多少不自由になるが、右手で押さえているよりはるかに行動の自由度は増す。

血の着いた衣服は切り裂き、その場に置き去る。
持って歩いても野獣を引き寄せるだけ。
今は謎の気配を確かめるほうが先だ。

しばらく歩くと後方で野獣の動く気配を感じた。
どうやら置いてきた服に群がっているようだ。
気配を殺しながら少し足を速める。

そのとき、また恭平の琴線に何かが触れる。

それを合図に大地が引き裂かれる!
大地が恭平をその顎に銜えるかのように。

とっさに大地の上に残った巨木めがけてワイヤーを放つが、その行為をあざ笑うかのようにワイヤーを絡めた巨木までもが大地に飲み込まれる。

ぱっくりと開いた大地は恭平と巨木を飲み込むと、静かにそのあぎとを閉じた。



-二:深き大地の底-


落ちる途中でワイヤーを周囲に放って体勢を立て直し、巨木よりもあとに落ちるようにしたところまでは憶えている。
大地に叩きつけられる直前に勢いを和らげたことも憶えている。
だが、不覚にも一瞬意識を手放しかけた。

「・・・・くっ」

落下した時に無意識で怪我をした左肩をかばおうとしていた。
だが、大地にぶつかる直前、自分の意志で右腕を守る。
不自由な左腕を守って右腕までも怪我をしてしまったら、戦闘能力が格段に落ちる。

結果、怪我をした左肩の傷はまたしても開き、さらに左腕も持っていかれる。
恭平を飲み込んだ大地はすでにその役目を終えたといわんばかりに口を閉ざし、空は全く見えない。
かすかにどこかから光が入っているのか、あたりは発光性の苔でぼんやりと輝いている。

落ちてきた穴が閉ざされている以上、出口を探さなければならない。
いや・・・・
出口を作ってもらうしかあるまい。

大地が恭平を飲み込む直前に感じた気配。
敵意は感じなかったが、あの気配を合図に大地に飲み込まれたことは確か。
ならば、あの気を放つ者であれば、出口を作ることも可能だろう。

自分の身体を確認する。
右足、左足、右腕・・・・異常ない。

頭も特に打たず、怪我をした左背中側から落ちたようだ。
その代わりに左腕の状態はかなり悪い。
魔法陣へと移動する前に医療の心得のあるものを頼らなければならないようだ。

装備を確認する。
愛用の短剣はすべてそろっている。
だが、ワイヤーは数本巨木に持っていかれた。
巨木の下敷きになっており、回収するのは難しそうだ。

そして恭平が暗い大地の底に立ったとき、またしても何者かが琴線に触れる。

「・・・・・おもしろい。」

それまでは、一定の範囲内のすべての者に対して放たれていただけの拡散した気配。
だが、たった今恭平に触れてきた気配は明らかにここに恭平がいることを知っている。

深い大地の底で、何かが恭平に気を放ってくる。
恭平はすっと気配を殺し、闇にまぎれる。
恭平を捕らえきれずにうろたえている気配を感じる。

その気を観察する。
相変わらず悪意は感じない。
感じるのは・・・・興味、好奇心、期待、喜び、うろたえ、たじろぎ、はじらい・・・そして一片の絶望。

恭平はなおも気配を殺し続ける。
恭平が見つからないことにより、いらだっているのだろう。
ここに誰かがいたということに確信が持てないのかもしれない。

うろたえ、いらだち、不安、懸念、疑い、猜疑、苦悩、哀しみ・・・・・そしてさらに強くなる絶望

未だ敵意は感じられない。
深き大地の底に無理やり招いておきながら、ただうろたえているだけ。

目的もなく招いたのかもしれない。
気まぐれだったのかもしれない。
こういった輩が素直に出口へと案内してくれるとは思えない。

だが・・・・力ずくでも出口は開けてもらう。
恭平は自らの気配を殺したまま、気を辿る。

深い大地の底で、光る苔の明りを頼りにして、ひたすら歩く。地上へと戻るために。



-三:空に知られぬ雪-


恭平を探すことをあきらめ、また広範囲に気を放ち始めた謎な者に向かって、少しずつ少しずつ歩を進める。
光ごけの岩場を抜けると目の前には鍾乳石。
ひんやりと冷えた空気が熱を奪う。
吐く息も白い。
滑りやすい鍾乳石の上をそっと歩く。

鍾乳洞の先に明りが見える。
目指す気配はそこにいるはず。

慎重に歩を進めていたが、左肩の怪我と冷たい空気が集中力を奪ったのかもしれない。
一瞬足を滑らせて体勢を乱す。

「・・ちっ」

とっさに全身でバランスをとって体勢を立て直したが、一瞬乱れた気は隠しようがない。

ここまで気を殺して歩を進めてきたのが水の泡。

発見されたのだろう。
驚き、喜び、うれしさ、そういった感情の混ざり合った気が絡みついてくる。
信じられないといったように何度も何度も確認するかのように絡み付いてくる気配。
悪意はなくてもうっとうしいことこの上ない。

薄明かりの中、夜目を効かせてここまで進んできたが、見つかったのなら遠慮は要らない。
荷袋から水の宝玉を取り出す。
青白い光があたりを照らす。
恭平に絡み付いていた気配が驚きに変わったかと思うと、まるで嘘のように消えた。

鍾乳石が作り出す美しい天然のシャンデリアの下。
目指す明りまでまっすぐ進むよりも多少迂回するほうが足場が良さそうだ。

だが、恭平は目を閉じる。
この先に潜む気配は宝玉を取り出した途端に気配を消した。
まるで宝玉を恐れているかのように。

今は迂回路のほうが足場が良さそうに見える。
だが、宝玉を取り出す前はそんな迂回路の気配も感じ取れなかった。

目を閉じる。気を読む。
そして、恭平は目を開けるとまっすぐ進む道を選んだ。
歩を進めると周囲の視界が揺れる。
視覚系の幻術をしかけてこようとしているようだ。

「・・・・この程度の幻術」

恭平の足は止まることがない。
しっかりと自分の足の裏で大地の鍾乳石の感触を確かめ、一歩、また一歩、歩を進める。
先に見える細い明りのほうへ。

そしてたどり着いた明りは鍾乳洞の出口。
小さな穴をくぐって進んだ先には・・・

「ここは?」

そこは大きなドーム形状の空間。
相変わらず上の空は見えず閉ざされているようだが、ドームの天井は恐ろしく高い。
そしてドームの壁面のいたるところから大地の裂け目を通して光が漏れ入ってくる。
ドーム内の大地は小高い丘。
漏れ入るかすかな光で育ったと思われる雑草がちらほらと見られるが・・・
丘の上を覆うのは真っ白い雪

大地の地下
深い深い大地の底にあるドーム状の閉鎖空間
その中に広がる緩やかな丘の空気は冷たく、覆われた雪は融けることを知らないよう。

太陽の光の届かない場所。
大地の裂け目の岩に反射してかろうじて届くかすかな光。
空の見えないこの場所に、空に知られぬ雪がある。

大地に縛り付けられ、空へと帰ることの出来ない雪が。

大地に縛り付けられたのは雪だけではなかった。
雪に覆われた丘の上。
空に知られぬ雪に守られる巨大な氷塊。

謎の気配を発していたのはその氷塊。
そう見て取ると、恭平はゆっくりと雪に覆われた丘を登っていった。

氷塊の中に何かがいる。
近づいてそれが何かわかったとき、息を呑む。



silf.jpg


氷塊の中に閉じ込められた者・・・・それは風の精霊シルフィード

「・・・・呼んだのはお前か。」

呼びかけても答えはない。
シルフィードは目を閉じたまま。



-四:大地の咆哮-


空気が冷たく感じられる。
水の力が強い。
明りの代わりに使っている水の宝玉が水の力を強めている。

恭平は水の宝玉を荷袋にしまいこんだ。

恭平が近づくのを拒むようになったのは水の宝玉を取り出してから。
シルフィードが捕らえられているのは氷の中。
水の力が強まることが何かしらの影響を与えている可能性に思い当たったようだ。

あたりは暗くなったが、漏れくる光が雪と氷に反射して先ほどまでいた鍾乳洞よりははるかに明るい。

水の気配が薄くなったとき・・・・シルフィードが目を醒ます。

緑色の目が歓喜で輝く。期待で満ち溢れる。
望んでいるのは唯一つ。

空に知られぬこの地から、
空に知られぬ大地と雪の縛りから解き放たれること。

だが、ここまで強引に呼びつけた相手の要望に応える義務はない。
相手に敵意のないことは明らかになった。
謎の気配がなんであるかもわかった。

だから、薄暗がりの中で喜ぶシルフィードにこう言い放った。

「俺には関係のない話だ。興味があるのはここから出ることのみ。道を開いてもらおうか。」

それを聞くとシルフィードは哀しげに目を伏せた。
シルフィードの目から涙がこぼれる。

と、それに呼応するように足元の大地が震える。
驚いたようにシルフィードの目が見開かれる。

大地に干渉しているのはこのシルフィードではない?
それだけ見て取ると、恭平は大きく後ろに跳び退った。
だが、その着地点を狙ったかのように大地が口を開く。

先ほどと同じ大地の割れ目に飲み込まれそうになった時にとっさにワイヤーを放つ。
複数のワイヤーの狙いは氷塊
先ほどは巨木ごと大地に飲み込まれた。
だが、あの氷塊ならば・・・・。

氷塊にワイヤーが巻きつく
一閃
また一閃
巨大な氷塊はそれだけで崩れることはない。
そして恭平の身体は大地の割れ目の途中で停止した。
数本のワイヤーを命綱にして、ふらふらと揺れながら。
案の定大地を操る者は氷塊を・・そしてその中にいるシルフィードを捨て駒には出来なかったようだ。

獲物を飲みそこなった大地はまた新たな牙をむく。
割れた大地が先ほどと同じように閉じようとする。

速い。
恭平はワイヤーを伝い、岩肌を蹴って雪のある大地まで登ろうとするが、大地の割れ目が閉じていく速度はあまりにも速い。
大地の壁が恭平を押しつぶそうと迫ってくる。
雪の地まではまだ遠い。

その瞬間、一陣の風が恭平の身体を押し上げる。
恭平の体が風に乗って割れ目から脱出するのと、大地がその割れ目を閉じるのはほぼ同じタイミング。
間一髪雪の地に降り立った恭平は氷塊へと目を向ける。

大地をあやつり、恭平に害をなそうとした者が何者なのかはまったくわからない。
だが、大地に潰されそうになったとき、風を放ってくれた者が何者であるかはわかる。
氷塊の中に閉じ込められながらも力を放ったシルフィード。

恭平は氷塊に巻きついたワイヤーを回収した。
ワイヤーの巻きついた部分は氷にうっすらと傷が入っていたが、ワイヤーを外すと一瞬にして氷は元の傷一つない表面を取り戻した。
この氷を割ることは容易ではあるまい。
それでもワイヤーを収納しながら、軽く頭を振って、
「・・・・借りが出来たな。」
と小声で呟いた。

氷の塊の前に立ち、シルフィードと目を合わせる。
期待と不安の入り混じった目で恭平を見つめるシルフィードの目を見つめ返す。
借りは借り。

「話を聞こうか。」

喜ぶシルフィードはそれでも不安の色を隠さなかった。
恭平はその様子を冷静に見て取った。






第二章.遥かな大地の風と雪


-一:氷の牢獄-


シルフィードの名は透音(とうね)といった。
北風をあやつり、雪を降らせ、雹を、霰を、霙を降らせるのが彼女の役目。

 

その年もいつものようにこの島の上で雪を降らせていた。
大樹の上で休みながら、風をあやつり、音もなく雪を降らせていた時にそれは起こった。
最初は気づかなかった。
髪が木の枝に引っかかる。
それすら自分の操る風でなびいた髪が枝に引っかかりやすくなっているのだと思っていた。
だけど違った。
木の枝が迫ってくる。背中から、右手から、左手から、目の前からも。
気づいた時には髪も羽も木の枝に絡めとられていた。
大樹を統べる木霊(こだま)に呼びかけても返事がない。
やむなく木霊に心の中で詫びながら、自らを縛りつける枝を風で折ろうとした時にそれは起こった。
大地が割れた。
大樹ごと飲み込まれる。
枝を、葉をあわてて切り払い、大樹から離れた時には遅かった。
今の恭平と同じ。
大地のあぎとはしっかりと口を閉ざし、大樹ごと地下に飲み込まれた。

だが、そのときにはまだ余裕があった。
この地を統べるノームに相談して出口を作ってもらえば良い。
そう考えた透音はこの地のノームを呼び出すことにした。

透音が降らせた雪は大気と大地へ溶け込む性質を持つ。
だから、雪の精霊を介すればノームを呼び出すことが出来る。
幸い、少し前に降らせたばかりの雪も一緒にこの地に飲み込まれていたから簡単なことだと。

それが今もここにある空に知られぬ雪たち。

そのときには予想もしなかった。
自らが生み出した雪にこんなしっぺ返しを食らうとは・・・・。

ノームが現れる。
と同時にこの地はしっかりとしたドーム状の牢獄に変動する。
ノームに問う暇もなく、今度は足元の雪が透音に襲い掛かる。
何が起こったのかわからず完全に後手にまわる。
透音に出来たのは完全に凍らされないように自分の周りに空気の層を結界として張り巡らせることのみ。

それでも・・・・翅は間に合わなかった。だめだった。今は氷に包まれて翅の先は完全に凍りついている。
氷から出られたとしても翅はもう動かせないだろう。

かろうじて張り巡らせた空気一層のおかげで目を開けることもできるし、声を出すことも出来る。
声が出る。
つまり呪文を詠唱することも。
透音は何度も呪文を唱え、周りの氷を砕こうとしたが、雪の精が作ったこの牢獄は予想以上に堅い。
透音の生み出した雪の精が透音を上回るような強い力を持てるはずがないのに、砕くことが出来なかった。

何かがおかしい。

だが、一つはっきりしていることがある。
この場所から一人で脱出することは不可能。
氷を砕いても翅は使えない。飛べない。
そして大地のドームは閉ざされている。
かすかな隙間はあれども、通りぬけられるほどの広さはない。

透音は助けを呼ぶために何度も気を放った。
空にいる者に。大地の上に立つ者に。

助けて欲しいと思っていた。助けて。助けて。という思いをこめて気を放った。
現れたのは心優しき、力無き獣。
誰も氷を割ることが出来なかった。

あきらめと絶望に包まれながら、気を放つようになった頃、不思議なことに気がついた。
透音の気に反応した者は少し離れた大地に飲み込まれ、そして気に誘われるようにこの地に現れる。
恭平が大地に飲み込まれたように。

助け手は次々とやってきた。
大地は透音の味方だと思った。
このドームの中を除いて。

でも違った。
大地がもたらしたのは絶望だけだった。
何人もやってくる助け手。
だが、誰一人この氷の牢獄を打ち破ることはできない。
それを知って絶望する透音。

大地は何度も何度も力あるものを飲み込んだ。
何度も何度も絶望する透音をあざ笑うかのように。


「貴方も私の気を感じたのでしょう?そして大地に飲み込まれたのではないですか?」

恭平は話を聞いている間、何を思ったのか右手でコツコツとノックするように氷を叩きながら氷牢の周りを回っていた。
だが、その言葉を聞くと透音の正面に回ってきた。
そして、ゆっくりとうなずき、透音の目を見つめながら尋ねた。

「他の連中はどうなった?」

嘘を許さぬような眼光に臆することなく答えは帰ってきた。

「雪の大地に・・・・飲み込まれました。貴方が先ほど飲み込まれかけたように。」

 

-二.氷牢崩し-


その言葉を聞くと恭平は再び氷を軽く叩きながらその周りを回るようにゆっくりと歩きはじめた。
コツリコツリと氷を叩いては場所を変える。
時々氷の表面を撫で、確かめる。
時には短剣の柄で軽く叩いて・・・そしてまた場所を変える。
歩きながら問いかける。

「他の連中は何をやった?」

剣を持つ者がいた。
氷に剣を叩きつけたり、剣を押し当てながらその剣を火であぶったりした。
ダメだった。
剣を叩きつけて軽いひびが入っても、次に叩きつけるより前に氷は元に戻った。
火であぶると氷の中に剣の刃先はもぐっていく。だが、刃先を飲み込むように氷は閉じていく。
結局剣が氷に飲み込まれて終わる。

「その剣はどうした?」

氷の塊に剣など見当たらない。

「剣の持ち主が大地に飲み込まれた時に、氷から吐き出されて大地に飲み込まれました。」

「ふん」

恭平はせせら笑うとまた氷を軽く叩き始めた。
歩きながら再び問う。

「他には?」

透音の話を聞いて、足元の雪を取り除けばいいと考えた者がいた。
雪の上で火をつけた。
一瞬で鎮火した。

雪を跳ね飛ばそうとした。
雪は大地に根を下ろしたかのようにどっしりと構え、吹き飛ばされることはなかった。

魔法で熱を放った。
雪は少し解けて・・・・水になり・・・・蒸気になり・・・ドームの天井でツララ状になると魔法使いを襲った。
魔法使いの命は助かったが、喉を痛めて詠唱できなくなった。

雪は時に姿を水に変え、氷に変え、排除しようと考える者達をことごとく跳ね除けた。


話を聞きながら氷の周りを回っていた恭平はある場所で足を止めると、短剣を抜き取り軽く揮った。
「ガッ」
という音と共に氷に短剣が突き刺さる。
だが、短剣を引き抜くと氷はゆっくりと修復された。

短剣を握りなおし、息を吐くと、同じ場所をめがけて、今度は素早く3回切りつける。
鈍い音が3回して氷にひびが入る。
だが、そのひびもゆっくりゆっくりと修復される。

恭平は氷に走った傷とその修復していく様子をじっと眺めていた。
また、ゆっくりと氷の周りを周りはじめる。
やがて、またシルフィードの正面に回る。
そして目を見て問う。

「大地に飲み込まれそうになったものを助けなかったのか?」
─────俺を助けたときのように。


シルフィードは目を伏せた。

恭平は黙ってその様子を見つめていた。
じっと。
身動き一つせずに。

先に沈黙に耐えられなくなったのはシルフィード。

「助けようにも・・・・間に合いませんでした。貴方のように時間を稼いでくれる人でなければ・・・・。
この氷の中から外に力を及ぼすのは簡単なことではありません。放った力もすぐに消えてしまいます。」

それだけ一気にいうと恐る恐る見返した。
男はまだこちらを見ている。
じっと。
こちらを探るように。

「貴方なら何か出来たというのですか!この氷の中に閉じ込められて。
私だって助けたかった!彼らは私を助けようとしてくれていたのに!」

「・・・・・その彼らとやらをこんな地底に招いたのは誰だ。」

透音は、はっと我にかえると、そのまま黙り込んでしまった。
恭平はなおもその様子を眺めていたが、シルフィードに背を向け、鍾乳石の回廊に引き返そうとした。
後ろから嗚咽が聞こえる。
だが、今度はシルフィードが泣いても大地は裂けなかった。

去ろうとする恭平の耳にかすかに聞こえた声。

その声に恭平は足を止めると、雪のない大地の上に荷袋を置いた。
そして振り返って氷の前に戻り、一言だけ言った。

「自分の身は自分で守れ。」

そして大きく後ろに跳び退ると氷を見据えてワイヤーを右手に持った。
左手は動かない。
片手だけで複数のワイヤーをあやつり始める。

かすかなヒュンヒュンという音が聞こえるだけで、ワイヤーは目にも留まらぬ動きで宙を舞う。

そして、次の瞬間、ワイヤーが氷の塊に叩きつけられる。

高速で叩きつけられたワイヤーは巨大な氷の塊にかすかな亀裂を残す。
その亀裂が修復する前に第二撃。
亀裂がより一層深くなる。
その亀裂が修復する前に続く第三撃。

全く同じ場所に高速でかつ連続的に叩きつけられるワイヤー。
その場所だけ元々の氷の色が白い。
綺麗な氷の結晶は透明度が高く堅牢。
だが・・・結晶の並びがひずんでいるところは白く濁り他よりも脆い。
恭平は表面の凹凸と結晶の白さ、そして傷をつけた時の修復速度を測った。
表面がいびつで、白いところほど修復も遅い。
そしてその場所の修復速度であれば、恭平のワイヤーのほうが速い。
高速で叩きつけられるワイヤーは時として剣よりも深い傷を氷に穿つ。
先ほど割るつもりもなく氷に巻きつけたワイヤーのほうが短剣で切りつけたときよりも深い傷を氷につけていたことに恭平は気づいていた。

ならば・・・・氷を割るつもりで、氷の一番弱い場所に、高速でワイヤーを叩きつけたら?

風車のように高速で回転するワイヤーが氷を抉っていく。
目にも留まらぬ細い刃が氷を削っていく。
氷を修復しようとする白い靄。
だが、それが氷となる前に容赦もなく削っていく。
亀裂が深くなる。

周りに飛び散った氷の欠片は白い靄となって氷の傷を修復しようとしていた。
だが、修復が間に合わないと悟ったのか・・・
舞い散る氷が小さな針のような形をとり、一斉に恭平に襲い掛かる。
氷が恭平の身体に突き刺さる前に大地を蹴る。
恭平の体が宙に舞う。
だが、ワイヤーは、休む間もなく氷を叩き続ける。

着地地点の大地がまた口を開こうとしているかのように蠢く。
同時につららのような巨大な氷が宙を舞う恭平に襲い掛かる。
恭平は宙で体の向きを変え、襲い掛かる氷を蹴りつけ、着地点をそらす。
大地が口を開いたとき、恭平が着地したのは全く別の場所。

ワイヤーはシルフィードの左肩をめがけて深く深く沈んでいく。
あと少しでシルフィードの肩に当たりそうになったとき・・・
何か堅い物がワイヤーを弾く。
シルフィードの風の結界。
その場所までワイヤーは氷を削りきった。

氷の外の空気がシルフィードに味方する。
恭平の削った穴から強風が逆巻き、氷塊の中から亀裂が入る。

そして・・・・強固な氷の牢獄はついに砕け散った!

 

-三.闇の呼び声-


氷の欠片が降ってくる。
もう先ほどのような力は無い。
砕け散った氷がガラガラと音を立てて崩れ、シルフィードはぐったりとして雪の上に倒れそうになる。
その細い身体を右肩に抱えあげると恭平は一気に丘を降りた。
鍾乳石の回廊に近い雪のない大地の上まで。

だが、懸念したような邪魔は入らなかった。
氷牢を崩したのち、氷と大地の抵抗はぴたりとおさまっている。
雪のない大地の上にシルフィードをそっと横たえる。

頬を軽く叩く。
氷を割るのに力を使い果たしたのか、シルフィードはぐったりとしている。

一つため息。
荷袋を回収し、中から水の宝玉を取り出してみる。
水の気配が濃くなる。
だが・・・・雪も氷も、ぴくりとも反応しなかった。

シルフィードへの借りは返した。
十分すぎるほどに。
あとはこの場所から遥か上にある大地の上に帰るだけ。
シルフィードの話を信じるなら大地を切り裂いたのはシルフィードではなくこの地に住まうノームらしい。
だとすると、ノームを引きずり出さなければならない。

ノームが閉じ込めていたシルフィードは開放した。
だが、まだ二人はノームの作ったドームの内・・・ノームの手の内にある。
シルフィードを取り戻すためにノームがやってくるのをじっと待つ。
だが、何の気配も感じられない。

氷牢を崩す前は確かに何者かの気配を感じていた。
シルフィード以外の何かが見ているような・・・ちりちりと首筋を逆なでするような気配。
だが、今は何もなく死んだように静か。
この大地そのものが死んでいるかのように。

「う・・・う・・・ぅん」

背後で小さな声がする。
シルフィードが目覚めようとしている。

そして・・・・・・・それと同時にぞっとするほど冷たい何かも。

シルフィードを狙って何かが目覚めようとしている。
それがなんであるかはわからない。
だが、確かに先ほどまでなかった何かが目覚めようとしている。

水の宝玉を荷袋に戻す。
荷袋を再び乾いた土の上に下ろし、愛用のナイフを引き抜く。

腰を落とす。
息を殺す。
ナイフに気を込めながら周囲の気を辿る。
今までなかったどす黒い何か。
かすかな気配を辿る。

静かに息を殺して、方向を探る。

氷塊の丘・・・・違う。
ドームの天井・・・違う。
ひび割れたドームの壁の奥・・・・違う。
先ほど割れたばかりの大地の奥・・・違う。

丹念に気を探る。

「・・・・あの・・・・何かあったんですか?」

シルフィードが目覚めて声をかけてくる。
同時に謎の気配も消える。
軽く舌打ちしてナイフを鞘に戻し、振り返る。

シルフィードはへたり込んでいた。
翅はだらんと垂れているが、手足には異常がなさそうだ。

「立てるか?」

声をかけると必死で立とうとするが、細い膝はガクガクしてとても立てそうにない。
手にもほとんど力が入っていないようだ。

「風の力の使っても動けないのか?」

その言葉を耳にするとシルフィードはふわりと宙に浮いた。
翅は痛々しく垂れ下がったままだが、まっすぐに立つことは出来るようだ。

十分に動けそうだと見て取ると、恭平は再び荷袋から水の宝玉を取り出した。
これから進むべき方向を決めなければならない。
宝玉を取り出すとやわらかい光があふれ出て周囲を照らす・・・・と同時に光が恭平を包み込み、防御力を高める。
これは敵に対峙した時に宝玉が示す動作。
先ほど氷塊と対峙した時には見られなかった宝玉の動き。
敵が近くにいる。

恭平は再びナイフを取り出す。
気を鎮める。
敵の目的はおそらくシルフィード。

「あの・・・・」

声をかけてくるシルフィードを意識から取り除こうとして・・・・・感じる違和感。
シルフィードの方を振り返る。
先ほどと同じように宙に浮いたままのシルフィード。
恭平の方を見るとにっこりと笑う。

「あの・・・・・私とってもおなかがすいちゃったんです。」

違和感が現実となって現れる。
シルフィードの動かない翅
その翅が闇の色に少しずつ染まる。
侵食されていく。

シルフィードがこちらに目を向ける。
先ほどまでとは異なる赤い双眸。
風が唸る。
ドームの中で。
シルフィードが唇を舐める。

恭平は静かに問いかける。
姿の見えない敵ではない。
敵の姿が目に見えている以上恐れることはない。

「何に憑かれた?」

だが、真の敵はこのシルフィードなのか、それとも・・・侵食した闇なのか。

ナイフにこもる力を意識的に抜く。
力を入れすぎては見誤る。

「とってもおなかがすいたの。・・・・だから食べさせて」

風が舞う。
襲い掛かってくる。
この強風の中ではワイヤーは使えない。
狙ってくるのは恭平の目。
とっさに目を閉じ、気配だけでナイフを振るう。
だが、手ごたえがない・・と悟ると大きく後ろに跳び退り、着地と同時に左に飛ぶ。
着地する直前に右手方向で風が唸った。
一瞬目を開ける。
右手では風がきりもみ状に舞っていた。
とっさの判断で左に飛ばなければ着地と同時に風に切り刻まれていた。

風を操るシルフィード
必殺の風撃を外してもなお赤い双眸のまま笑っている。

「ねぇ・・・私・・・とっても料理がうまいのよ。貴方を・・・・切り刻んであげる。」

恭平はナイフを握りなおす。
来る。
今の攻撃よりも数倍の攻撃が・・・
風が唸る。唸り声をあげる。
そして、シルフィードがかざした右の掌の上に小さな竜巻が発生する。
圧縮された風の塊。

シルフィードが笑い、振りかぶり・・・今にも放とうとしたときそれは起こった。

大地がひずむ。
恭平のたっている場所を中心に大地が沈む。
恭平を中心にして一瞬で出来た円形のくぼ地

そしてそのくぼ地を覆うように土が覆いかぶさってくる。
恭平を包み込むようにドーム上の屋根が出来る。
閉じ込められる。


地下に作られたドーム状の空間
空から見られぬ大地の上に、新しく小さな土のドームが出来る。
シルフィードから遮るように恭平をその中に包み込んで・・・・





-四.大地と雪の選択-


新たに出来たドームの外ではシルフィードが風をあやつり、ドームを崩そうと懸命になっていた。
一方、ドームの中では・・・


「誰だ?」

ナイフを手放すことなく静かに呼びかける。
呼ぶ声にこたえるように大地が震え、人の形を取る。
大地の精霊 ノーム
そしてその横にぼんやりとした白い影・・・雪の精

どちらからも敵意は感じられない。
ただ、哀しんでいることだけはわかる。

このドームの中に招いたのが彼らであることは間違いない。
相手の話をじっと待つ。


案の定ノームが口を開く。
『ナガイ ジカン モタナイ ドーム』
『コノシマ オカシイ マナ ノ バランス。 セイレイ ダンダン オカシクナッタ。 ヒト ヲ オソウ』
『トウネ モ オカシクナッタ』
『トウネ ジブン オカシイ キヅイタ。 タノマレタ。 トジコメタ。 コオリ ノ ナカ。 シマ ガ モドルマデ。』


少し前からこの島で異常が起こり始めた。
マナのバランスが崩れ、動物、植物、精霊たちは侵食され、姿を変え、人を襲うようになっていった。
透音も少しずつ自分がなくなっていくのを感じた。
だが、不思議なことに植物と岩がその身を犠牲にして守ったのか、大地の奥深くだけは侵食を受けなかった。
それを知った透音はノームと雪の精に頼んだ。
この島のマナのバランスが元通りに戻るまで、自分が他者を傷つけないように閉じ込めて欲しいと。
ノームと雪の精はその依頼を引き受けた。

だが、風の精霊を地に縛り付けるのは自然に反する。
ましてや、雪は透音によって生み出されたもの。透音を閉じ込めるほど強い力は持っていない。
そのため、ノームと雪の精は自分たちの力に制約をつけることで強い力を生み出した。
ノームの課した制約は、大ドーム以外のこの近隣の大地の支配権を透音に渡すこと。
雪の精の課した制約は、空にも大地にも還れないこの特殊な場所で、精性を失い、ただの雪として残り続けること。

二人は自分達に制約をつけ、その代償として得た強い力で透音を閉じ込めた。
透音は氷の中で眠っていた。
だが、闇は少しずつシルフィードの精神を蝕んだ。

闇につかまったシルフィードは風をあやつり、ドームと氷塊に傷をつけようとした。
だが、このドームだけはノームが守っているし、氷塊は雪の精が自ら輪廻の和に戻ることを拒否して生み出した強い力で守られていた。
そこで、シルフィードは新たに得た大地の力を振るって、助け手となりそうな者を次々にドームから少し離れた地下へと飲み込み始めた。

最初に飲み込まれた者たちによって道が作られた。
何人もの飲み込まれた者達の犠牲により鍾乳石の回廊も出来た。
・・・・・・・・・・無数の人々がここまでの回廊で犠牲になった。
そして、ついに氷塊の前にまで人が現れるようになった。

ノームはドーム内の大地だけはあやつることができる。
鍾乳石の回廊の入り口を閉ざそうとしたが、そこを閉ざすとまた多くの人が招かれ、鍾乳石の回廊とこのドームをつなぐことが出来ないまま犠牲になっていった。

そこでノームはこのドーム内の大地にまで地下に落とされたヒトを招くことにした。
今までに何度も氷塊の前まで人々がやってきた。
ノームはその人々を大地の下に飲み込んだ。
この大地の地下には地底湖がある。
湖は水の領域。
大地の力を得たシルフィードでも干渉できない。
人々は地底湖を通じて外へと帰っていった。

『アナタ チテイコ ノミコム シッパイシタ。 アナタ コオリ クダイタ。 トウネ ヤミ ツカマッタ』
『ユキ ノ セイ チカラ ウシナッタ。 タダノ ユキ ナッタ』
『キット トウネ ヒト ヲ オソウ。 ヒト チカ マネク。 チカ マネカレタ ヒト トウネ エサ。 タベル』
『ヒト タベタラ モウ モドレナイ。 セイレイ モドレナイ。 トウネ ヤミ オチル』
『トウネ タノンダ。 ヤミ オチル イヤ。 コロシテ ホシイ。 デモ ノーム セイヤク。 トウネ コロセナイ』

それだけいうとノームはじっと恭平の目を見つめ返した。
大きなつぶらな目で何かを訴えかけるかのように。

「シルフィードが外に出て、力は戻ったのか?」

『セイヤク トウネ ショウキ モドルマデ。 ドーム ナカ チカラ ツカエル。』
『イマ トウネ ドーム ナカ。 デレナイ ドーム ソト』
『トウネ ネムラセテ。 ソシテ アナタ カエス チテイコ』
『ダイチ ミカタ。 アナタ マモル。』

一つため息をつく。
シルフィードのあの風の技。
あれを潜り抜けて倒すにはそれ相応の策が必要だ。
だが、シルフィードを何とかして捕まえないとノームは道を開いてくれそうにない。

右手のナイフをしまい、残った武器を確認する。
幸い荷袋も一緒にドームの中にある。
愛用のナイフが二本
ワイヤーが数本・・・だが、無理に氷を削ったため、少ししか使えそうにない。

ノームが恭平の左腕に触る。
『ダイチ アナタ ミカタ』

一瞬だった。
ほんの一瞬ノームが左腕を触った。それだけで左腕が完治する。
左腕でナイフを抜く。
軽く揮ってみる。
全く違和感がない。
ノームがにっこり笑う。

「・・・・いいだろう。お前たちの望みは叶えてやる。これが終わったら地上に返してもらおう。」

ノームはこくこくと頷いた。

話は決まった。
闇に染まったシルフィードを・・・・眠らせる。
そして、帰る。地上へと。


(続く)

PR
URL
FONT COLOR
COMMENT
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
PASS

TRACK BACK

トラックバックURLはこちら