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闇と鎖と一つの焔

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  • 11/25/05:00

51

「ぷはぁ!!!」

湖の中から少女が顔を出す。
コナトオトグルの力を持ってしても、ヒトである以上長時間水中に留まることはできない。


─────本当にこの遺跡と来たら・・・どうなってるのよ。


遺跡の中にあるとは思えない広大な湖。
そこには確かにサカナも居れば、ハスなどの淡水植物も生えている。
遺跡の中だから作り物の世界のはずなのに・・・。


だが、こんな湖があることはティノにとってはありがたい。
水霊の力を借りれるティノは水の中にいることで回復することができるから・・・。


再び水の中に身を沈める。
透明な水に光が射す。
きらきらと輝く。
ハスの間から射す光は湖の中をスポットライトのように照らしている。


ふと気づいて、水面に浮かび、湖の中央の方へと泳いでいく。
中央あたりではハスの葉もなく、ただひたすらに青い水、水、水・・・・


湖の中央付近、岸からかなり離れた場所でティノは水中へと身を躍らせた。


光射す水中に・・・・・・・遺跡。
神殿のような遺跡がそこにあった。


息を呑むほど美しい神殿の中へと身を泳がせる。
神殿の柱をくぐりぬけたとき、違和感が・・・


───────ここ・・・・息が出来る?


確かに水の中なのに、なぜか息が出来る。
不思議な感覚に導かれるまま、ティノは神殿の奥へ奥へと進んでいった。


神殿の壁のレリーフ
そこに書かれていたのは、楽園のような島の歴史。


昔、この湖の上に小さな島があり、そこには水神の神殿があった。
神殿を中心に人々は町を作り、水神をあがめた。
水神は人々の祈りに答え、畑や森の恵みはすばらしく、湖の魚も大漁だった。
信仰厚い人々の祈りが水神をささえていた。
また祈りに支えられた水神は民の祈りに答え続けた。
楽園のような夢見る都がここにあった。


だが、レリーフは謎な一枚の絵で途切れていた。
そこに描かれていたもの。
それは一枚の裂かれた蓮と崩れる神殿。


ティノがそのレリーフの前に立ち、そっと触れたとき・・・・
ごおっという音とともに神殿の柱が揺らぎ始めた。

あわてて神殿から脱出しようとしたそのとき

───────何、これ!嫌!!

膨大な記憶がティノの中に流れ込んできた。




楽園のような都
その崩壊は一人の乙女を神が欲したときに始まった。
茶色い髪と青い目の美しい少女。
だが、彼女は神の妻となることよりも、1人の若者を選んだ。
神は彼女をあきらめ祝福した。
だが、神を崇める一部の人々は彼女を神にささげようとした。
結果・・・・若者は殺され・・・娘は蓮の満ちた湖に身を投げた。
絶望する神の心が力となって顕現し湖の蓮はずたずたに裂かれ、
神殿は崩壊し、湖は島を飲み込んであとには何もない湖が残った。

だが、蓮の花と葉がずたずたに切り裂かれても地下茎は残った。
蓮は乙女の哀しみを吸収し、哀しい歴史と神殿を隠すかのように湖に広がった。




────────お願い。彼らを解放してあげて。

誰かがティノを呼ぶ。

────────貴女なら出来る。

あたしに何が出来る?

────────蓮の花を一つ燃やして



ふと気がつくと、ティノは湖の岸に横たわっていた。

夢??

だが、服や髪はぐっしょりと濡れている。


少し考えてティノは言われたとおりに行動した。
岸に近い蓮の花を一つナイフで切って摘み、それに火をつけた。

あたりに香のような匂いが広がる。
そして・・・・・・・・・

────────ありがとう

小さな声が聞こえた気がした。


蓮が燃えて煙が出ているにも関わらず、空気が澄んでいく。
炎とともに何かが浄化していく。
やがて燃え尽きる頃、ティノは急激な眠気を覚え、その場に倒れこんだ。


乙女の哀しみを蓮が受け継いだ。乙女の魂は蓮に取り込まれた。
都を崩壊させたあと、その場に残った水神は蓮を愛し・・・・
彼女を永遠とするために、おろかな都人の魂を蓮に縛り付けた。
都人の魂を吸って蓮は成長する。
彼らはこの地に呪縛された。
それと同時に乙女の魂も蓮に縛りつけられた。

────────私たちは輪廻の輪に戻りたかった。
───────私と同じ青い目
──────私と同じ茶色い髪
─────貴女なら出来ると思っていた。
────ありがとう。ありがとう。
───これで私たちは輪廻の輪に還ることが出来る。
──ありがとう。本当にありがとう。
─あなたに加護がありますように・・・・・・・・。
ありがとう・・・・

声がかすかになり、数百の何かが空へと浮かんで消えていった。


ティノが目ざめたとき、あたりはすっかり暗くなっていた。
「っくしゅん」
濡れた服のまま寝てしまったため、身体が妙に冷たい。

ティノは湖に目を向けて驚いた。
あれだけあったハスの葉がなくなっていた。
そこにはただ青い水をたたえる湖があるのみ。
明るい月の光が差し込んでも、神殿のような物は見えなかった。


夢?

───────いや・・・夢じゃないぞ。


コナトオトグルが珍しく答えてくれた。


じゃあ・・・・・・・・あれは本当にあったこと。


夢のような楽園とその崩壊。
呪縛された魂とその開放。


だが、あまりにも急な展開に、なんだかキツネにつままれたような気分。
でもコナトオトグルが言うからには間違いないのだろう。

茶色い髪、青い目・・・ティノと姿かたちは違っていたけど、色はそっくりだった。


「どんな楽園でも縛り付けられるのは嫌よね」


ティノはつぶやいて・・・祈りをささげた。
長く呪縛され、開放された魂が、真の楽園で安らぎを得て、輪廻の輪へと戻れますようにと。


六人目のお題「楽園」  51 ティノーシェル・ブルージンガー

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