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闇と鎖と一つの焔

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  • 04/24/18:40

1271

あ~あ、かったるいよなぁ。
ほんと、何よここ。

だいたいさ~、なんでこんな地下に空とか草原とかあるわけ?
周りの人たち誰もおかしいと思ってないのかしら?

まぁ、ここにいる人たちも相当かわってるしね~。
こりゃ早めにリタイアした方が身のためかな?

でも、タバコもまだまだつきそうにないし、
あとちょっとぐらい探索してみてもいいか。

あんまり『頑張る』って趣味にあわないのよね。
宝玉が出たとかで、妙にみんな目を輝かせちゃってるけどー、
それが本物だってみんな信じ込んでるのかしら?

なんか単純な人が多そう。




遺跡外で退屈していた響が、その場所に気づいたのは偶然。

どこへ行く目的もなく、ふらふらと歩いていたら、路地の裏に小さな階段を見つけた。
階段の上には小さなお店があるようだ。

響は何の気なしに階段を上った。
ぎしっ、ぎしっ、と音を立てる階段を上ると、古びて曇った硝子のはまり込んだドアを開ける。

店の中は薄明かり。
アンティークなランプがかすかに店の中を照らしている。



小さなお店。
どうやらアンティークの小物が入り口付近にはあるようだ。
だが、入り口の先が折れ曲がっていて、中にはどうやら別の何かが飾ってあるらしい。

響は何の気なしに入り口に置いてあるアンティークのカバンの値段を見る。
遺跡に入る時に荷物を持ち込むカバンが欲しかった。
店の入り口に置いてあるカバンは、古いものだが作りがしっかりとしている。
古いものだけに皮も柔らかくなめされており、荷物入れにちょうど良い。
値段は・・・・たったの5PS


掘り出し物!!


響は直感した。
このカバンは絶対に入手しておくべきだ。響はカバンを手に持つと店の奥へと入っていった。





「ごめんください」

通路の先もアンティークな明かりで照らされるだけの暗い店。
そして白く光る螺旋階段。

店自体2階にあるのだが、どうやら内部の階段で3階にも通じているらしい。
2階には誰もいないと見取って、店の中の螺旋階段を上がる。

カツーン、カツーン、・・・・

階段は何で出来ているのだろう。
響が一歩、一歩上がるたびに高い音を立てた。

カツーン、カツーン、コツッ、コツッ

3階に上がるとそこは屋根裏部屋のように屋根が三角形になった部屋だった。
といっても天井までの高さは十分にある。
天井には明かり取りの窓。

そして・・・3階で売っている物は、ずらっと並んだアンティーク・ドール
それも見事なドールが並んでいる。

響はその中の一つのドールの値段を見た。
500PS

意外と安い・・・・
そう思ったとき・・・





「何か御用ですか?」





後ろから声をかけられた。

暗い、アンティークのお店
並ぶ人形
そこにいるのがマントをかぶった老婆だったりしたら、響もびっくりしたことだろう。

だが・・・
紺のタイトスカートに白いシャツブラウス
年のころにして40歳ぐらいの落ち着いた雰囲気の女性店員さんがそこにいた。




「あっ・・・えっと・・・このカバン欲しいんですけど」

響は入り口からずっと持ち歩いていたカバンを差し出す。
店員は黙って受け取ると

「505PSです」
といった。


「え?」

驚く響の目の前で、店員はカバンの中から一体のアンティーク・ドールを取り出した。


「あっ、ごめんなさい。お人形が入っていることなんて気がつかなかったわ
 カバンだけ欲しいんですけど」

「さようですか・・・・・そうだと思いました。」

そういうと店員は人形をあいている隙間にそっと置いた。



『隙間???』

響が来た時にはこのフロアには隙間なくアンティーク・ドールが並んでいたはずだった。
だが、確かに今見ると隙間があり、店員はそこにアンティーク・ドールを置いた。

その場所、その人形・・・さっき何気なく響が値段を見た人形だった。

『そういえば・・・・私、さっきこのカバンの中を確認したはず。そのときには何も入ってなかった・・』




「お客様」


店員の冷たい声が響く。


「5PSになりますが」

「は・・はい!!」


響はポケットから財布を出した。
そこには660PS入っていたはずだった。
だが、今見ると160PSしかない。

響は恐る恐る店員の包んでくれた包装を見る。
その包装は空のカバンとは思えない大きさ。




「あの・・・・」

「5PSです」

「あのごめんなさい・・・・お金が足りなくて・・・・キャンセルしてもいいですか?」









「嘘つき」








小さな声が聞こえた気がした。

店員はどうやら慣れっこのようで、快く応じてくれた。
響はもう一度財布の中を見る。
そこには660PS入っていた。








響は螺旋階段を下りる。

カツーン、カツーン、カツーン、カツーン(ぴたっ)

ふと足を止める。
だが・・・

カツーン(ぴたっ)

響が止まっても、足音が響く。
ここには響とあの店員しかいない。
そして3階を見上げるとあの店員が人形を整理しているのが見える。






響はまた階段を下りる。

カツーン、カツーン、カツーン(ぴたっ)

だが・・・・

カツーン(ぴたっ)



確かに一回多い!



響は後ろを振り返る。だが、そこには誰もいない。







響は階段を駆け下りる。
駆け下りて、駆け下りて、駆け下りて・・・・気づく。



この階段・・・・こんなに長いはずない。



響は上を見上げる。3階はもう見えない。
響は下を見下ろす。だが、2階は暗くて見えない。



そんな・・・・そんなはずない!



・・・・・・カツーン・・・・カツーン・・・



階段には響しかいないはず。
響は今足を止めている。
なのに・・・・

聞こえる。

すぐ後ろで聞こえる。







響は振り返る。
だが・・・・・そこには誰もいない。






『だめ・・・・パニックになっちゃダメ!』

響は自分に落ち着けといいながら、階段を駆け下りる。
叫んじゃいけない。
パニックになったら負けだ。
自分に言い聞かせる。



カッカッカッカッカッカッカッ



響は階段を駆け下りる。
一気に駆け下りて・・・・足を止める。



カツーン・・・・・・カツーン・・・・・



音は少し遠ざかった。
これなら大丈夫。これなら逃げ切れる。
でも・・・・一体何から?

冒険者としてのちょっとした好奇心。
でも思い出した言葉。

『好奇心、猫をも殺す』

響は走る
階段を駆け下りる。



カッカッカッカッカッカッカッ・・ドスッ

ようやく2階についた。



見慣れた通路を走る。
周りにある高そうなアンティークグッズに気をつけながら一気に扉に手をかける。

扉の横には・・・・・・・なぜか見慣れたカバンがある。
さきほどまで響が持ち歩いていた、皮のカバン。


あれは一品物で、1個しかなかったはず。



響はカバンから離れるようにして扉に手を伸ばし、一気にドアを開ける。
そしてドアを開ける直前響は見た。



カバンの口が開く。
人形がこちらを見つめる。
手を伸ばしてくる。















「嘘つき!!」













その瞬間ドアを開ける。
光が店の中に射す。



もう一度見てみるとあのカバンがあったと思った場所には別のカバンが置いてあった。
ぺちゃんこになっていて、口もしっかり閉じられている。
中には何もないように見える。


響は店を出ると古い階段を下りた。

ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ(ぴたっ)

響は途中で足を止める。
だが、あたりは静かで何の音もしなかった。


響はほっとした表情で階段を下りると人通りの多い道に向かって歩いていった。









ぎしっ・・・・・・・・・・・・・・・ぎしっ・・・・・・・・・・・・

響は気づかなかった。
あの店で財布をだしたときに、招待状をおとしてしまったこと。

「嘘つきな・・・・・風間 響さん」

人形が笑う。
招待状を持った人形がくすくす笑う。








翌日、陽の光があたりを照らす時間に、響は昨日の店に行ってみた。
招待状を落としたことに気づいたのだ。

だが・・・・店のあった場所は焼け焦げていた。
どうやら昨日の深夜、不審火があったらしい。
幸いあの店は数年前から閉鎖されており、誰もいなかったという。



『そんなはずはない』


口から出かけた言葉を飲み込む。火事は不審火が原因なのだ。余計なことはいわなくてもいい。



そのとき誰かが響の服のすそを引っ張った。
見ると小さな女の子が立っている。


「お姉ちゃん、風間響さんっていうの?」


頷く響に少女はあるものを差し出した。
それは響が落とした招待状。


「これ、お姉ちゃんのでしょう?あげる。」


少女はそういって手渡すと走り去っていった。
走り去る少女を目で追って・・・・響は凍りついた。

少女は左手にお人形を抱いていた。
それはあのアンティーク・ドール








響は手渡された招待状を開いて・・・・招待状を捨てようと決意した。
島に来てしまったら、もう要らないものだが、なんとなく記念に持っていただけ。
招待状を持ってきていない人だっているぐらいだ。

響は招待状を火にくべた。



響の招待状・・・・
あけると人形サイズの小さな手形がペタペタとついていた。
響の名前のところにはとりわけたくさん。
それも赤い血の付いたような手形が残っていた。






・・・・響は手形に驚いて見なかった。
だけど、招待状には一文追加されていたのだ。

たどたどしい文字で・・・

「嘘つきの響さん。あたしをもらってくれる人ができたから許してあげる」






その後、少女と人形の行方は誰も知らない。


二十六人目のお題:「階段」  1271 風間 響
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