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槍や薙刀はどちらも歩兵が騎兵に対抗するために作られた武器
その動作は両手を使った攻防一体の動作であることが多い。
薙ぎ・・・払い・・・そして突く。
だが、だからこそ、騎兵に対抗しうるだけの鋭い足捌きが必要となる。
前後への直線的な動きの多い騎兵に対抗する左右への俊敏な動作
流れるような足捌きこそが槍術を支える。
その槍術の中にあって、異質な術式
牙蹄流槍術
片手で手綱を片手で剣を扱う騎兵と異なり、
槍騎兵は片手で手綱を扱い、片手でランスと呼ばれる串刺しするのに適した槍を装備するのが基本だ。
戦場においては片手で手綱を片手で車輪のように槍を回転させ敵をなぎ払うこともある。
だが、それでは真の槍の力を発揮できない。
長槍術の技である薙ぎ、払い、突きを生かすにはどうしても両手での槍の扱いが必須となる。
強靭な足腰の力だけで馬を操り、両手で槍を操る。
槍術を極めた者のなかで、優れたバランス感覚と強靭な下半身を有する者だけが極めることを出来る術式
それが牙蹄流の槍術
霧生 透は優れたバランス感覚を有する少年だった。
友人に勧められた槍術。
リーチが長く、剣道よりも面白いと感じた。
彼は朝も学校帰りも道場に通った。
古武術の多くの例に漏れず、槍術の師範も礼儀にうるさい方だった。
朝、道場についてまず一礼。
最初にやるのは掃除。
道場の床を綺麗に磨き清める。
この掃除も足腰の鍛錬の一つなのだ。
掃除が終わると槍のチェックを行う。
稽古の時には鞘に入れたままの槍を使用する。
鞘を抜いて試合うのは、師範と師範代の模範試合のときのみだ。
だからこそ、鞘がすっぽ抜けることなど許されない。
また、長尺の武器だからこそ、自分の体に見合った重さの武器を選ばなければならない。
毎朝の手入れはこれからの鍛錬に問題がないことを確認する大切な時間だ。
多くの初心者はその重要性を理解せず、稽古の時間のみを楽しみにする。
だが、透はこういった一つ一つの所作も怠ることがなかった。
そして朝の鍛錬。
ここでは軽く型の確認を行う。
朝の鍛錬ののちに道場に飛び散った汗を清掃して、その後学校に行く。
学校が終われば道場に戻り、また一礼。
そして型の確認の後に、実戦的な試合形式の鍛錬が行われる。
夕刻、鍛錬が終了すると再び槍の手入れ。
柄についた汗を丁寧にぬぐう。
鞘止めを確認し、槍を仕舞う。
その後道場の清掃を行い、一礼してから道場を後にし、家路につく。
家に帰ればごくごく普通の学生らしく、テレビを見たり、ネットで遊んだり、携帯でメールをしたり・・
そんな生活がずっと続くと思っていた。
あるとき彼は牙蹄流と言う槍術の流派があることを知る。
正直、おもしろくないとおもった。
彼は槍術の流れるような足捌きを楽しいと思っていたから。
だから、馬術の訓練もそれほど気が入っておらず・・・
一応手綱をあやつって馬に乗れる程度の訓練はしたが、騎乗戦闘の訓練はしなかった。
彼は馬術に対しては礼を払わなかった。
あくまで槍に対してのみ心を砕き、礼を重んじた。
どれほど優れた資質があっても、礼を持たぬ者に開かれる扉はなし。
牙蹄流の門は彼に対して二度と開かれることはなかった。
「あぁ!ちくしょう!!もっと、まじめにやっておけばよかったぜ!!」
見渡す限りの砂地
見渡す限りの平原の続く広大な遺跡。
騎乗戦闘をこなし、すばやく隣接する戦場へと移動する人々を見ながら、透は後悔していた。
あの頃・・・もっとちゃんと馬術も極めておけばよかったと。
開かれた門をくぐるも閉ざすも本人次第。
だが、機会は多く訪れるわけではない。
一度閉ざされた門が都合よく開かれることもなし。
彼は彼に見合った力でこの島での戦闘をくぐりぬけることとなる。
二十人目のお題「礼儀」 814 霧生 透
※言うまでもなく・・・牙蹄流などという流派はありません。フィクションです。
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