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久々に・・・
ここまで触発されると思わなかった。
でも暗いですよ。
偽島~if~ 四つの季節の物語
―春―
「おい 真。香織ちゃんが来るぜ。」
真と呼ばれた青年は声をかけてきた青年の方をチラッと見ると、素早くノートや教科書をまとめるとそそくさと退散しはじめた。
「和輝、つかまる前に行くぞ。」
「お!今日も逃げるの?無駄だと思うけどな。ま。お付き合いしましょうか。」
二人が教室を出てからやってきた長い髪の少女はキョロキョロとあたりを見回して、
そして視界の片隅に目的の人物を発見すると、脱兎のごとく駆け出した。
「今日は逃げ切ったかな?」
そういう二人の背後から
「あっまーーーーい!!甘い甘い甘すぎ!」
という声がかけられるまでそれほど時間は必要じゃなかった。
ため息をつく真。
天を仰いで両手を挙げる和輝。
観念したかのように真が振り返ると、両手を腰にあてて睨みつけてくる一人の少女。
「香織・・・・たまには俺を放っておいてくれないか?」
「だーーめ!それに今日は買い物に付き合ってくれるって約束したでしょ!」
そう言って真の腕を取る香織。
「俺帰るわ。んじゃ、香織ちゃん、こいつのことよろしくーー」
「あっ、てめぇ!和輝!ずるいぞ!お前も付き合え!」
「冗談!俺は馬に蹴られる気はないぜ。犬も食わないのに付き合うのもごめんだよ!」
じゃあな!
そう言って駆けて行った和輝を真は眩しそうに見ていた。
「真。」
「ん?」
「迷惑だった?」
ため息をつくと、ポンッと香織の頭を叩いた。
「莫迦。今日は確かに俺が悪かったよ。行こう。カバンが買いたいんだったよな。」
「うん!」
そういうと二人手をつないで、歩いていった。
陽射しのやわらかな春の日のことだった。
桜の花びらがひらひらと舞っていたのを俺は今でも憶えている。
―夏―
「緋沙子伯母さん、香織は?」
香織のお母さん・・・俺にとって伯母に当たる緋沙子さんは綺麗な人で・・・
彼女は小さい頃の俺の憧れだった。
とても優しい人で、その優しさの理由を知ったあとも俺はこの人が好きだった。
「真くん、走ってきたの?顔が青いわ。大丈夫なの?」
俺は少し心臓が弱い。
今でもほとんど走れない。
だから、いつも香織に捕まってしまう。
俺の母が妊娠中に緋沙子伯母さんと何かあったらしい。
俺の母は早産で、そして俺の心臓が弱かったことを緋沙子伯母さんはとても気にしているらしい。
そんなことを知らない頃はこの美しい人が娘の香織よりも俺のことを気にかけてくれていたので・・
俺はとても幸せに感じていたものだった。
子どもだった俺は母に何度も
『緋沙子伯母さんが僕のお母さんだったらよかったのに!』
と言ってしまった。
その母も今はいない。俺は何度後悔したことか・・・・。
「大丈夫だよ。それより香織は?」
「和輝くんと出かけたけど・・・真くん一緒じゃなかったの?・・・・真くん?」
ドクン!
走ったときよりも胸が痛む。
和輝と?
どうして?
「真くん、真っ青よ。真くん!」
あぁ・・・・なんでこんなに暑い・・・どうしてこんなに汗が出るんだ。
いた・・・・・痛い。
「くっ」
気がついたとき、天井がやけに白いなと思った。
ここは・・・・香織の家の客間だ。
「真、大丈夫?」
この声は香織だ。
俺はゆっくりと目を開ける。
ほら、香織がいた。
その横に・・・・・・和輝もいた。
俺は思わず顔をそむけてしまった。
「真、大丈夫か?お前、真っ青だぞ。」
「和~、ちょっと真のことみてて。お水もらってくるから。」
「おっけー。何かあったらすぐ呼ぶよ。」
和?
香織はいつから和輝のことを和って呼ぶようになったんだ?
暑い・・・・こんなふうに布団の中に押し込まれているとひたすら汗が出る。
和輝が俺の汗を拭こうとして、タオルを差し出してくるのを、俺は振り払った。
思わず振り払ってしまった。
「真?」
そのあと香織が戻ってくるまで、俺と和輝は一言も話さなかった。
香織が戻ってきて、和輝に俺の体を支えさせて水を飲ませてくれた。
俺はようやく生き返った気がして・・・そして訊かないといけないことを訊いた。
「お前らつきあってたのか?」
二人が顔を赤くするのを見て・・・・・俺はなんともいえない気持ちになった。
きっと、切ないというのはこういう感情なんだろうな。
暑い夏の日。
空が青くて、雲の白さが目に痛いぐらいのまぶしい夏の日に俺は失恋した。
―秋―
走っちゃダメだ。
俺は走って倒れたりしてはいけないから。
はやる心を抑えて、俺は早歩きで病院の扉をくぐった。
「聖先生!なんで!」
そこにいたのは見た事のない医者と俺の主治医の聖先生。
そして、緋沙子伯母さんと和輝。
「真くん、ちょっと深呼吸だ。」
俺は言われるまま一回だけ深呼吸をして・・・
「香織が交通事故にあったって嘘だろ!」
一番訊きたかったことを訊いた。
「本当だ。今、手術を受けている。下腹部を強く打ってひどい状態だ。」
嘘だ。
香織は今朝本当にうれしそうだった。
和輝と出かけるって。
緋沙子伯母さんが許してくれたから、はじめて遠出をすると言っていた。
『でもね。夜には帰ってくるよ。帰ってきたら真に話したいことがあるんだ~。』
そう言って、俺に夜の時間を空けておくように念を押して出かけていった。
俺は最近ようやく慣れた切なさを抱えながら見送ったんだ。
「和輝・・・一体何があったんだ?」
「俺・・・・俺達ちょっと口げんかして、俺がもう帰ろうって言って、駅に向かって道を渡ったんだ。香織も慌てて追いかけてきて、それで・・・・ 喧嘩のあとだったから俺早歩きだったんだ。香織は俺を呼びながら、急いで車道に出て・・・それで・・」
和輝はずっと下を向いてた。
だけど、なんとなくわかった。
だから、俺は何も言えなくて・・・・
緋沙子伯母さんは どうして!と和輝を問い詰めてる。
和輝はただ・・・申し訳ありませんと頭を下げて・・・
緋沙子伯母さんもわかってるんだ。和輝が悪いんじゃないってこと。
そのあとのことはよく憶えていない。
ただ、手術が終わって、誰かに言われるまま香織の病室に入った。
いろんな医療器具につながれてて・・・いつも強気の香織らしくなくて・・・・
「真・・・」
小さな声。俺はそれを聞き逃すまいと耳を香織の口元に寄せて、手を握ってた。
「あげる。」
「何を?」
「あたしの心臓・・・・真にあげる。」
「何を莫迦なこと言ってる?俺の心臓は別になんともないと言うと言い過ぎだけど、人からもらうほど悪くないぜ!変なこと言ってないで早く元気になれよ!」
香織は何を言っているんだ。
いや、何を知っているんだ。
知らないはずだ。
知っているはずがない。
「聖先生から聞き出したの・・・夏に・・・・真が倒れた時・・・・・」
あの、藪医者!守秘義務をなんだと思ってるんだ!!
従兄妹だからって話していいわけがないだろう!
「ねぇ・・・・真・・・・あたし、いつかこうなる気がしてた。」
何を言ってる?
「あたしの身体・・・・ずっと借り物みたいに感じてた。いつか誰かに返すんだって・・・・・・今やっとわかった。真・・・・ありがと。・・・・・今までありがとう・・・・・あたしの心臓、あげるね・・・」
「香織!何言ってる?お前おかしいぞ!」
「あは。うん・・・・もうおかしくなってるかも。・・・・・・ねぇ・・・真」
「香織?」
「大好き。・・・・それだけ言いたかったの。」
その秋・・・・俺の胸にぽっかりと穴が空いた。
俺の胸には発作を起こす事のない元気な心臓が移植されて・・・・
その代わりに、俺は自分の命よりも大事なものを喪った・・・・・
―冬―
「雪か・・・・」
「雪だな。初雪だ・・・・・」
「・・・・・なぁ、真。」
「ん?」
「俺、あの日、香織に振られた。」
「そうか。」
「驚かないのか?」
「すまん。なんとなく予想してた。」
「そうか・・・・・なぁ、真。」
「ん?」
「でも、お前勘違いしてるだろう?」
「何を?」
「俺達付き合ってなんかいなかったぜ?」
「え?」
「俺と香織ちゃんが夏二人で出掛けたのは聖先生のところ。お前に言うわけにはいかなかっただろう?」
「・・・・そうか。」
「しかも、聖先生、俺には言えないって。香織は親戚だし、年齢が近いから話をしてもいいってさ。」
「・・・・」
「お前、俺と香織が付き合ってると思って、わざと香織を避けただろう?だから、香織は俺と一緒に出かけたり出来ないってさ。俺・・・それを聞いて頭に血が上ってさ・・・・。香織はお前のこと好きだったんだなって。」
「ごめん・・・・それもなんとなく知ってた。」
「・・・・・・そうか・・・・俺、とんだ道化だったな。でも、俺、お前も香織も二人とも好きだぜ。」
「俺も和輝のこと親友だと思ってるよ。」
「この雪をあの娘はもう見れないのね・・・・」
「緋沙子伯母さん・・・」
「真くん・・・・生きてね。あの娘の分まで生きて。いろんな綺麗な物を見て、いろんな経験をして、いろんな物に感動して・・・・あの娘の分まで・・・・。そうじゃないとあの娘が可哀相になってしまう。あの娘は可哀相なんかじゃない。短い人生だったけど、悔いなく生きたわ。
だから・・・真くん。」
俺は頭を下げて一礼すると胸に手をあてて
「大事に生きます。」
そう言った。
ひらひらと舞う雪。
貴女は一生こうやって遠くを見て生きるのですか?
香織、お前は可哀相じゃないかもしれないけど、親不孝ものだ。
俺はそう思うよ。
「私のことを恨んでいるかい?」
俺は即答できなかった。
「一つ聞いてもいいですか?」
「何でも。もっとも応えられるかどうかは別だがね。」
「和輝に聞きました。先生は香織が親戚で年が近いから話したと。
親戚はともかく、年が近いってなんですか?まるで・・・」
「まるで、私が事故を起こして、脳死での心臓移植をするお膳立てをしたとでも?」
「そこまでは言いませんけど・・・でもどうして?」
聖先生は応えなかった。
俺は先生の目を見つめた。
やがて先生はため息をついた。
「実を言うと私もわからない。」
「先生!」
「何故か・・・君に心臓が回ってくるとしたら彼女の物だろうという気がしたんだよ。
自分でも全くわからないがね・・・・こんなことは初めてだ。」
「先生・・・」
「すまない・・・真くん。私にも何故かわからないんだ。本当に。・・・・・私は医者を辞めようと思うんだ・・・」
「先生!」
「君と彼女をはじめてみたときから、何故か彼女のすべては君に還るという気がしたんだ。まるで・・・どこかで彼女が君からすべてを奪い、それを今こそ君に返そうとしているかのように・・・・。まったく科学的じゃないね。もう引退する時期ということだよ・・・。
・・・・・真くん、君は生きろよ。」
真っ白な世界
雪が落ちてくる。
花のように綺麗な雪が頬に落ちて融ける。
何度も何度も頬を濡らす。
どうして今ここに君がいないんだろう。
どうして今ここに俺は一人なんだろう。
どうして二人で寄り添っていられないんだろう。
この綺麗な雪を眺めるのは俺一人。
香織・・・・
俺も大好きだったよ。
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マナ→立花 真 大学生
華煉→立花 香織 大学生 真の従姉妹
橙輝→初橙 和輝 大学生
緋魅→立花 緋沙子 主婦 香織の母 真の伯母
清蘭→聖 清隆 内科医
??→???? 心臓外科医
華煉は偽島が90日ぐらいまで進んだらマナのすべてを奪って、人に堕精します。
もしも現在に還ったら、華煉はマナにすべてを返すでしょう。
というのがテーマ。
偽島では華煉が残されて・・・・if の世界ではマナが残されます。
残される者の哀しみ、喪失感。それを描ければ・・・・と。
※ところで、移植ってこんな簡単に出来ないですよね。現実感無くてすみません。
BGMは 中島美嘉の「雪の華」でした。
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