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闇と鎖と一つの焔

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  • 11/25/04:50

494

紅茶を入れてほっと一息。
安らぎの時間を迎える。

いつもならなんとなく楽しい気持ちになる時間なのだが、今日はため息しか出ない。


───────そろそろ引退かしらねぇ


まだまだやれると思ってこの島にやってきた。
今でもまだまだやれるつもりだ。

だけど、最近若い人たちと話していると、ちょっとしたギャップを感じなくもない。

意外とこの島には学生が多い。
彼らから見れば私など母親ぐらいの年齢だろう。


─────限界とは思わないけど


魔術も舞踊も負ける気はしない。
円熟味を増してこその技もある。
それに料理や付加・・・若い者では出し切れない味がある。


─────そうさ。まだまだ私は限界じゃない。それを証明して見せようじゃないか!


ピーチはお茶の道具を片付け、外に出ると、自らの魔力を集中し始めた。


────こんな風に自分の力を試すのは久しぶりさね。


右手と左手に持った二つの魔石に力を篭める。
集中する・・・集中する・・・
やがて、ピーチの頭上に魔力球が形成され始める。
魔力球は次第に大きく・・大きくなっていく・・・








やまねこは扉を叩く音に気づいて、宿営地のドアを開けた。
そこには疲れ切って四つんばいになってぜいぜいと肩で息をするピーチがいた。

「ど・・・・どうしたにゃあ?なにかあったにゃあ?」

だがピーチは息も絶え絶えですぐには答えることが出来ない。
ようやく、声が出るようになったとき・・・


「ぜぇ・・・ぜぇ・・・やっぱ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・年には・・・勝てないねぇ・・・・・」


と呟いた。


そう、ピーチは限界を感じていた。






自分の魔力に対してではない。


自分の脚力に。






巨大な魔力球を作り上げ、それを一気に放つ。
巨大な爆発音とともに近くの山が大きく形を変える。

自分の魔力は昔以上に冴えわたり、限界などまったく無いように思えた。
自分の戦闘能力に対するゆるぎない自信。
それを久々に確認した。


だが・・・昔なら・・・・爆発音に驚く人々がやってくる前に全力で走り去れたものだ。
山に巨大なクレーターを穿ち、形を変えた責任などとれようはずがない。


逃げるが勝ちさね!


だが、さすがにこの年で全力疾走は厳しすぎた。
足はもつれるわ、息はあがるわ・・・。
最後には魔術や呪術を使って自分の姿を消してようやくその場から去ることが出来た。


────これからは人に見られては困るようなことは控えないといけないねぇ


自分の戦闘能力に限界は無い。
だが、自分の逃げ足は昔ほどの冴えは無いようだ。

ピーチは半ば満足、半ば残念に思いながら、そのまま眠りについた。



翌朝・・・・
大きく形を変えた山を見て驚く人々に混ざって、ピーチも驚いてみせた。
逃げ足は弱っていても、演技力は向上している。
白を切る能力も年とともに円熟味を増している。


─────これなら・・・無理に逃げなくてもなんとかなったかも。



一週間ほどたって遺跡のあるエリアでも山の大陥没が見られた。
驚く人々の輪の中に、ピンクの髪にツインテール、フリフリの魔法衣を着た熟女がいたようだが、
山を変えた力の持ち主は誰なのか未だ不明のままである。


十四人目のお題「限界」  494 ピーチ・チャイム
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