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闇と鎖と一つの焔

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  • 11/25/04:41

641

「ママ、お帰りなさい♪」

熱を出して寝てたママ。
ようやく戻ってきてくれた。

でも兄弟たちはみんな不満みたい。
ウィレムは特にママが好きだから。

ママがお熱をだしたとき、ウィレムももっともっとお熱を出してたんだって。
でもウィレムはうれしそうだった。ママと一緒だったから。
ママがお城を出るときみんな寂しそうだった。


「マーマ、もうだいじょうぶ?」

ママはにっこり笑ってくれた。

「ねぇ、ママ。
 クロトね、パパに手伝ってもらってちゃんと宿題やったよ。
 だから、ママもやくそく守ってね!」

「約束?」

「そう!宿題したらクロトをちゃんと冒険につれていってくれるんだよね!」

「え、えぇ。そうね。クロトも一緒に行きましょうね」







ドキッとした。
クロトに約束といわれて・・・・。

高熱を出して寝込んでいたと聞かされたとき・・・・怖かった。
熱のせいでまた記憶を失ってしまったんじゃないかと・・・。
息子たちのこと、娘たちのこと、ただでさえ失われている記憶。
もうこれ以上失いたくなかった。

怖かった。本当は大丈夫なんかじゃなかった。
でも・・・・もう心配させたくないから。

だから・・・・クロウは小さな嘘をつく。
本当はわかっていないけど、わかった振りをする。
本当は大丈夫じゃないけど、大丈夫な振りをする。


「ママはもう大丈夫よ。一緒に行きましょうね」


と微笑んだ。







ママは大丈夫っていった。
だけど、クロトは気づいてしまった。
「やくそく」といったときママがちょっとだけ動揺したこと。
「一緒に行きましょうね」と笑ってくれたけど、心から喜んでなさそうなこと。

きっと、ママは本当はクロトが宿題をおわらせるのに、もっともっと時間がかかるとおもったんだ。
今回はクロトをつれていきたくなかったんだ。
クロトはいっしょうけんめい宿題やったのに・・・・


『そりゃ・・・・ちょっとだけパパにてつだってもらったけど』


マーマ・・・・

クロトはうっすらと涙を浮かべた。


「クロト?」

背後から声をかけられて振り向いた。あわてて服の袖で涙をぬぐう。

「パパ」

「どうかしたのか?」

パパはクロトの頭をわしわしって撫でてくれた。








いつもだったら頭を撫でると嫌がるクロトがしょんぼりしている。

「パパ」

「どうした?元気が無いな。ひょっとしてクロトも風邪引いたのか?」

「違うよー!クロトは元気だもん!・・・・・・・パパも・・クロトがいると邪魔なの?」

そういうと珍しく目から大粒の涙をぽろぽろ流した。
いつも強気なクロトが涙を流すなど、そうそうあることじゃない。

エドがひざをついて手を広げ、おいで、というと泣きながら抱きついてきた。
抱き上げて頭をさらにわしわしっと撫でても泣き止まない。


『パパも』

といった。ということは・・・・?

クロウがクロトを拒絶するはずが無い。
だが、クロトはクロウに拒絶されたと思っている?

クロトが泣きながら語った言葉。
クロウが何を考えていたのか、なんとなくわかってしまった。

クロウのことも気にかかる。
だけど、今すぐにやらないといけないことはたった一つ。

クロトは鋭敏な子だ。
嘘をついてもすぐに見分ける。
だから、・・・・・嘘のない、真実の言葉をあげよう。

エドはクロトをぎゅっと抱きしめると小さな耳にこうつぶやいた。


「クロト、パパはクロトのことが大好きだよ」




一つの些細な嘘で傷ついた心。癒すために必要なのは心からの言葉。

いつか、こんなこともあったね、とみんなで思いだせる日が来るといい。

『ママ、あのとき嘘ついてたでしょ!ちゃんとわかってたんだから!』

そんな風にクロトがクロウに言って、

『あの時クロトはわんわん泣いたんだよな。』

と俺が話して・・・・家族みんなで笑える日が来るといい。

いつかそんな風にみんなで笑える日がくるといい。



十七人目のお題「虚偽」
 641 クローヴィス・S・フェンデル (+ 1023 エドヴァン・S・フェンデル + ご家族の皆さん)

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