NEW ENTRY
[PR]
641
「ママ、お帰りなさい♪」
熱を出して寝てたママ。
ようやく戻ってきてくれた。
でも兄弟たちはみんな不満みたい。
ウィレムは特にママが好きだから。
ママがお熱をだしたとき、ウィレムももっともっとお熱を出してたんだって。
でもウィレムはうれしそうだった。ママと一緒だったから。
ママがお城を出るときみんな寂しそうだった。
「マーマ、もうだいじょうぶ?」
ママはにっこり笑ってくれた。
「ねぇ、ママ。
クロトね、パパに手伝ってもらってちゃんと宿題やったよ。
だから、ママもやくそく守ってね!」
「約束?」
「そう!宿題したらクロトをちゃんと冒険につれていってくれるんだよね!」
「え、えぇ。そうね。クロトも一緒に行きましょうね」
ドキッとした。
クロトに約束といわれて・・・・。
高熱を出して寝込んでいたと聞かされたとき・・・・怖かった。
熱のせいでまた記憶を失ってしまったんじゃないかと・・・。
息子たちのこと、娘たちのこと、ただでさえ失われている記憶。
もうこれ以上失いたくなかった。
怖かった。本当は大丈夫なんかじゃなかった。
でも・・・・もう心配させたくないから。
だから・・・・クロウは小さな嘘をつく。
本当はわかっていないけど、わかった振りをする。
本当は大丈夫じゃないけど、大丈夫な振りをする。
「ママはもう大丈夫よ。一緒に行きましょうね」
と微笑んだ。
ママは大丈夫っていった。
だけど、クロトは気づいてしまった。
「やくそく」といったときママがちょっとだけ動揺したこと。
「一緒に行きましょうね」と笑ってくれたけど、心から喜んでなさそうなこと。
きっと、ママは本当はクロトが宿題をおわらせるのに、もっともっと時間がかかるとおもったんだ。
今回はクロトをつれていきたくなかったんだ。
クロトはいっしょうけんめい宿題やったのに・・・・
『そりゃ・・・・ちょっとだけパパにてつだってもらったけど』
マーマ・・・・
クロトはうっすらと涙を浮かべた。
「クロト?」
背後から声をかけられて振り向いた。あわてて服の袖で涙をぬぐう。
「パパ」
「どうかしたのか?」
パパはクロトの頭をわしわしって撫でてくれた。
いつもだったら頭を撫でると嫌がるクロトがしょんぼりしている。
「パパ」
「どうした?元気が無いな。ひょっとしてクロトも風邪引いたのか?」
「違うよー!クロトは元気だもん!・・・・・・・パパも・・クロトがいると邪魔なの?」
そういうと珍しく目から大粒の涙をぽろぽろ流した。
いつも強気なクロトが涙を流すなど、そうそうあることじゃない。
エドがひざをついて手を広げ、おいで、というと泣きながら抱きついてきた。
抱き上げて頭をさらにわしわしっと撫でても泣き止まない。
『パパも』
といった。ということは・・・・?
クロウがクロトを拒絶するはずが無い。
だが、クロトはクロウに拒絶されたと思っている?
クロトが泣きながら語った言葉。
クロウが何を考えていたのか、なんとなくわかってしまった。
クロウのことも気にかかる。
だけど、今すぐにやらないといけないことはたった一つ。
クロトは鋭敏な子だ。
嘘をついてもすぐに見分ける。
だから、・・・・・嘘のない、真実の言葉をあげよう。
エドはクロトをぎゅっと抱きしめると小さな耳にこうつぶやいた。
「クロト、パパはクロトのことが大好きだよ」
一つの些細な嘘で傷ついた心。癒すために必要なのは心からの言葉。
いつか、こんなこともあったね、とみんなで思いだせる日が来るといい。
『ママ、あのとき嘘ついてたでしょ!ちゃんとわかってたんだから!』
そんな風にクロトがクロウに言って、
『あの時クロトはわんわん泣いたんだよな。』
と俺が話して・・・・家族みんなで笑える日が来るといい。
いつかそんな風にみんなで笑える日がくるといい。
十七人目のお題「虚偽」
641 クローヴィス・S・フェンデル (+ 1023 エドヴァン・S・フェンデル + ご家族の皆さん)
- トラックバックURLはこちら