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闇と鎖と一つの焔

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  • 11/22/04:24

51th day

エゾリスと戦って、ベアさんとトーキチローさんと合流することになっている。

ベアさんとの練習試合の前に言われた。

「本来なら俺が守らないといけないんだが守られる側か。」

守る?守られる?

気づいてないのかな?

最近の私の役目は相手の防御結界をクラウソラスの力を借りて破ったり、倒れないように相手から力を奪ったり、

そんなことをやっているだけで、倒すのはベアさんやトーキチローさんのお連れさんたちに任せている。

私、ちゃんと守ってもらえてるよ。

いろんな人が私に心を配ってくれるのがちょっとだけ心苦しいけど、でも、とてもうれしい。

久しぶりに蒼夜さんの声も聞いた。

だけど、どうしよう。マナになんて言おう。

朝帰りして怒られたばかりなのに、まだその話もしてないのに。

蒼夜さんに誘われたって言ったら、マナ、どうするかな?

◆             ◆             ◆


「ほう。俺が行っていいと言うとでもおもったのか?」

我ながら冷たい声だ。


戦闘が終わって、ベアやトーキチローと合流するまでの短い間、華煉が火喰い鳥のナイフを取り出して俺に話しかけた。
俺は最初に朝帰りの理由を聞きたかったのに、華煉はまったく別のことを話し始めた。
蒼夜・・・・あいつ。
絶対に手出し禁止って言ったのに。
おまけに一通り俺に話したあとで、人の気も知らずに、華煉がなんといったと思う?
華煉はこういったんだ。

「マナ?蒼夜さんとお出かけしてもいい?」



言うまでもないけど、俺は、今、魂だけの存在だ。
それなのに元の形をとっているのは「俺」が消えてしまわないようにするためだと清蘭が言っていた。
魂だけになっても「マインドスナッチ」という火喰い鳥の民の性格や思いを風化させないために、よりリアルに近い形を紅瑪瑙石の結界内で維持している。
そうして、元の形をとっているから、痛みを感じたりもするけど、本来は魂だけの存在が傷つくなんて相当なダメージを受けないとありえないらしい。
俺が望めば痛みを全く感じないようにも出来るらしいが、痛みを感じないような器では「俺」という形はどんどん風化して行くらしい。

俺が「俺」であり続けるために、俺の魂はこの紅瑪瑙石の結界のなかで「俺」という形を保っているから、その代償として魂だけの存在になっても、簡単なことで痛みを感じる。
今のような在り方になってからもたくさん痛みを覚えたが・・・・・・・今回は強烈だ。
人の気も知らないで、それをお前は俺に聞くのか?


俺は知っている。
火喰い鳥の民とヒトは似て非なるものだから、火喰い鳥の民がヒトに対して、男女のつながりを求めることはない。
ヒトに好意を抱くのは、その人の人柄や在り方に惹かれるだけであって、決して男女のそれではない。
だけど、過去を見てきた俺は知っている。
ヒトが火喰い鳥の民に男女のつながりを求めることはあるし、全くその気のない火喰い鳥の民に焦れて時には陵辱することもあったということを。
だから、俺は華煉が一晩戻らなかったとき、それほど心配したことか・・・・・。

わかっている。蒼夜はなんのかんの言っても合意の上でしか何もしない。
その背を追いかけて、女がしつこく絡んでいくだけだ。
だから、華煉が蒼夜と出かけたところで、何も起こらないのはわかっている。

『俺は心の底で蒼夜を信頼していないんだろうか?』

俺の頭の中をそんな考えがよぎる。
これが蒼夜じゃなくてAchtだったら?
俺はより信頼している友人を思い浮かべて、そして気づく。
蒼夜だから嫌なんじゃない。華煉が心配だから嫌なんじゃない。これは俺の独占欲だ。

そこまでわかるから、だから、自分のことを押さえ込もうとして・・・・・
俺が苦労して俺を押さえ込もうとしているのに・・・・華煉の一言が俺をあっさりと変えてしまう。


「やっぱりだめ?でも、マナ。蒼夜さんってとても優しい人ね。
元気そうじゃないからって、あんな風にやさしく言ってくれるヒト初めてだったかも。」


華煉がそのあとも何か言っていたけど、もう俺には聞こえていなかった。
少し照れたように微笑んで蒼夜のことを話す華煉をみて、俺は頭に血が上った。
俺はどす黒い情念に絡め取られた。


「俺はこの火喰い鳥のナイフの中に閉じ込められているのに、いい身分だな。」


華煉の顔が一瞬で青ざめる。そのぐらい冷たい声が出た。

「俺はお前を信頼して一人で行かせたのに。街のことを俺に話してくれるのを楽しみにしていたのに。
お前は火喰い鳥のナイフを置いていった方がのびのび出来るんだな。
俺を結界内に縛り付けて、俺のいない場所でずいぶん楽しんできたんだな。
そりゃそうだよな。俺に気を遣わなくて済むし、お前はお前で一人の時間ももちたいんだろうな。」

チガウ コンナコトガ イイタインジャナイ

「・・・・マナ」

「そういえば遺跡外ではどんな買い物をしたんだ?お前が何を欲しがるのか俺は知りたいといったけど。
まぁ、もう報告なんてしなくていいよ。
せっかく一人でのびのび遊んできたのに、俺にいちいち話すなんて息が詰まるよな。」

ナニヲ イッテイル ヤメロ

「蒼夜とでも誰とでも好きに遊んで来ればいいんじゃないか?いちいち俺に聞くことなんかない。自分で判断しろよ」

ソレイジョウ イウナ ダマレ

「いっそ、このナイフをこの砂地の中に埋めていけばいいんじゃないか?
もう俺のことなんか捨てて自由に生きろよ。お前はその気になればどこへでもいける体を手に入れたんだ。
俺との守護契約だって、別に維持しなくてもいいんだろ?もうお前も焔霊としての縛りはないんだから。」

イウナ!

「俺の体を乗っ取って、俺をナイフに封じ込めて、手に入れた何の縛りもないお前の体だ。
どこへ行くのも好きにしろよ。いちいち俺に聞くな。
どうせ今の俺にはお前を引き止める術もない。お前が帰ってこなくても探しに行くこともできない。
お前には・・・お前が帰ってこなかった夜に俺がどんな思いをしたのか想像もつかないんだろうな。
どれほど心配で、どれほど探しに行きたくて、あれほど自分の体がなかったことを恨んだ夜はない。
俺は待ってたよ。お前が話してくれるのを。一晩帰ってこなかった理由を話してくれるのを。
お前から話してくれるのを待っていたのに、お前はそんなことよりも・・・別の男と遊びに行くことを考えているんだな。」

ダマレ!!

「こうなったのは俺の愚かしさが原因だってこともよくわかっている。
だから、俺の体を返せとは言わない。俺に自由を返せとも言わない。
だけど、もう、外のことは自分で判断しろ。俺に聞くな。」



黙り込んだ華煉は泣くのかと思っていた。

だけど、華煉は泣くこともしなかった。
何も言わずに火喰い鳥のナイフを荷物袋の中にそっとしまったようだ。
もう、俺からは華煉が見えなくなった。


あんなこと言わなくても良かったのに。
こんな苦しみは要らない。
こんなに苦しまなくても・・・
そう・・・俺が望めば、俺は苦しみから解放される。
「俺」は「俺」でなくなるかもしれないけど・・・・もういいんじゃないか?

チガウ ソレハ ニゲテイルダケダ

逃げる事の何が悪い?

カレンガ カナシム

華煉なら、きっと闇の翼の面々や蒼夜やAchtがやさしくしてくれるさ。

カレンノ ドリョクヲ ムニスルノカ?オマエヲ モドスタメニ ナレナイ剣ヲ フルッテイルノニ

華煉ももうやめればいいんだ。宝玉を集めて俺を復活させるなんて。やめる方が華煉も幸せになれる。

ジブンニ マケルナ オマエ ハ 「オマエ」 デ ナケレバ ナラナイ

こんなに苦しい思いを抱えてまでも俺は「俺」でいなければならないというのか?

オマエノコトバヲ キイタ カレンノホウガ イタソウダッタ

・・・・・・

アンナフウニ キズツケルコトハ ナカッタノニ  コノ ユガンダ カンケイ モトハトイエバ オマエガ

うるさい!黙れ!お前は誰だ!

オレカ? ワカッテイルンダロウ オレハ オマエダ マインドスナッチ イヤ オレハ オマエダヨ サンカ

「俺」は燦伽とは違う!黙って消えうせろ!過去の亡霊め!


俺は天を仰いで息を吐く。
静寂が戻っても、一度口から放たれた言葉はもう戻らない。
華煉を傷つけて、何もかも投げ出してしまいたいのは、俺の弱さゆえ。
独占欲ももどかしさもすべて俺の弱さ。華煉が悪いわけではない。

その日の俺は何度も自分を責め、すべてを投げ出してしまいたい誘惑と戦い、疲弊していった。


◆             ◆             ◆


火喰い鳥のナイフをしまって、その代わりにお札を二枚取り出した。

昔、マナにあげた結界を作る護符。

一枚で自分や荷物を包み込む大きな結界を作る。

もう一枚で火喰い鳥のナイフを収めた荷物袋だけに結界を張る。

これで外からは私たちの姿が見えない。

そして、火喰い鳥のナイフの中にいるマナからは私の姿が見えない。声も聞こえない。

視界が滲む。

これが私の罰?

マナと共に歩くことを望んで、堕精することを選んで、力を落として、マナを斬られて・・・

共に歩く夢を叶えたい、それだけのために、この島の多くの命を奪い・・・

マナの体を奪い、自由を奪い、多くの犠牲を払わせ、私は何をやっているの?


◆             ◆             ◆


「『俺は燦伽とは違う』と言うたか」

お前は自分がイールだと言うたな?
もし本当にお前がイールだったら、そんな風に自己嫌悪に陥らず、誰かの介入と気づくのが普通じゃろう?

声もあげずに泣く華煉を見て、怒る緋魅を封じながら、清蘭は考えていた。
信じることと知ることは違う。
緋魅は華煉が燦伽だと信じたいから、自分がイールだと言うマナの言葉を信じた。
だが、儂が知りたいのは都合の良い言葉ではなく、真実だ。

華煉は涙のあとを消し、泣いていたことを悟られないように化粧を施す。
荷物袋にかけた結界だけはそのまま維持するようだ。
これから戦闘が始まるのに、せっかく張った結界をわざわざ消すことはない。

あの札の結界には儂の力が関わっておるの。これは都合が良い。

緋魅を封じて、清蘭は飛んだ。
華煉に気づかれることなく、マナと話せるチャンスを逃さないように。
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