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1096
砂嵐がきそう?
砂地を日除けのマントを纏って歩いていた風屡は強い風の気配を感じた。
いつも一緒にいるライオンも低い唸り声を上げている。
こんな何もない場所で砂嵐に巻き込まれると辛い。
少し離れた場所に石造りの遺跡をみつけ、風屡は走った。
ライオンもぴったりとついてくる。
石造りの壁の影に飛び込んだ瞬間、強い風が吹いた。
サンドストーム
この広大な遺跡の中で何度かこの現象に出合った。
約30分ほどの嵐を、ある者は魔法防壁を作って防ぎ、ある者は地の中にもぐって避けた。
ある者は砂の舞い上がらないほど高い天空で風のみと闘い、
そして風屡のように地を歩む者は遺跡の影に隠れて嵐の過ぎるのをじっと待った。
所詮は遺跡の中の嵐
最初のうちは大したことないだろうと舐めてかかったものもいた。
だが、30分もの間、砂を叩きつけられて立っていられるものなどいない。
砂漠を旅することも多かった風屡は、最初にサンドストームにあった時から油断しなかった。
遺跡の中とはいえ、舞い上がる砂の量が半端ではなかったからだ。
この遺跡は確かに作り物かもしれない。
まがい物かもしれない。
だが、風に舞い上がったあの砂の量は間違いなく真実だ。
風屡のようにそれを見切ったものだけがこの地の最初の洗礼を何事もなく切り抜けた。
見切れずに砂地で強行した者達・・・彼らはサンドストームが去った後、体勢が整う前にモンスターに襲われて、一時的に遺跡外に撤退することすら余儀なくされた。
そして、今日も風屡は遺跡の影でサンドストームをやり過ごそうとしていた。
この遺跡には少しだけ屋根が残っており、サンドストームをやり過ごすのもいつもより楽だ。
この嵐のあとにはモンスターの襲撃があることが多い。
風屡はマントを脱いで弓矢と吹き矢の手入れを始めた。
「ほう」
今まで誰もいないと思っていた遺跡の中にもう1人何者かがいることに風屡ははじめて気がついた。
共にいるライオンが低い唸り声でけん制する。
「そんなに怒るなよ。せっかくの美人が台無しだ。」
遺跡の奥から出てきたのは見知らぬ男。
装備から考えて接近戦タイプのソルジャーだ。得物はよくわからない。
ライオンが風屡と男の間に立ちはだかる。
だが、男は何気ない動きでライオンの飛びかかれる守備範囲のぎりぎり外で止まり、ポケットから出したタバコに火をつけた。
間合いを完全に見切っている。相当な熟練者だ。
油断できぬ相手・・・・。
風屡は気を溜める。一瞬も気が抜けない危険な相手だと感じた。
飄々とした男はタバコを吸いながらにやにやと笑って風屡をじろじろと見つめている。
「貴方・・・何者!」
緊張に耐えられなくなって、風屡から声を発した。
ひゅぅ
口笛を吹いた男はにやっと笑った。
「まるで仔猫みたいだな。そんなに気を荒げるな。可愛い顔も可愛い声も台無しだ。」
「なっ!!」
「そんなに心配しなくてもいい。どんな美人でも成熟していないお子ちゃまに手を出すつもりはない」
風屡はお子ちゃま呼ばわりされたことに、少し気分を害した。
だが・・・・明らかに男の方が上手だ。
年齢は不詳だが、落ち着いた物腰は年下には思えない。
30代後半・・・・ううん・・・40代かしら?
悔しいが男から見れば、確かに風屡などまだまだ青いといわれてもしょうがないだろう。
それにこの男の余裕たっぷりの所作。
先ほどからずっとライオンに牽制されているのに、それを気にする様子はない。
おそらく・・・・彼が本気になればライオンとて一撃で倒せるのだろう。
そんな余裕が感じられる。そしてそれをライオンもわかっている。
緊張していたため、何時間にも感じられた。
だが、男は先ほど火をつけたタバコをまだ吸っている。
ほんの数分しか経っていないのだろう。
その時間が永遠にも感じられた。
ようやく男がタバコを吸い終わり、吸殻を靴の底でもみ消して・・
「今日の嵐は短かったな・・・」
とポツリとつぶやいた。
言われて風屡も気がついた。
サンドストームが収まろうとしている。
それも始まったときと同様に急速に。
「先に行く。頑張れよ、お嬢ちゃん」
声に気づいて男のほうを見ると・・・・男はすでに風屡の入ってきた遺跡の隙間から出て行くところだった。
ほんの一瞬でライオンと自分の横をすり抜け、外へと出て行った男。
強い・・・・・
この遺跡にはたくさんの強者がいると知っていたが、風屡は格の違いを見せつけられた気分だった。
「次!!」
サンドストームが収まると、案の定、雑魚モンスターたちが襲い掛かってきた。
嵐が収まってから合流したミラとともに迎撃する。
ライオンと風屡に魅了されたスケルトンが、敵を風屡の吹き矢の射程内におびき寄せる。
そこを風屡とミラで叩きつぶす。
これが風屡とミラの戦い方。
だが、それはちょっとした油断で起こった。
追い詰められた敵がスケルトンに飛び掛り、その瞬間、別の敵の光魔法がスケルトンを直撃。
スケルトンが消え・・・・スケルトンに飛び掛った敵はその後ろにいた風屡にそのままぶつかった。
足場は砂地。
足を取られて倒れこんだ風屡は流砂に巻き込まれた。
「!」
とっさに弓に矢をつがえて、矢を放つ。
矢にはロープついており、何かに引っかかってくれさえすれば流砂から逃れられる。
だが、何もない砂地に立ち木などなく、矢はぽとりっと落ちて、そのままロープごと流砂に流れそうになる。
ミラが絶望の声をあげたそのとき
男の腕がロープをがしっと握り締めた。
「上がって来いよ。お嬢ちゃん」
いけ好かない、油断のならない・・・・だけど自分よりも遥かに強いあの男がそこにいた。
「さっきはありがとう」
風屡が礼を言ったのはそれから少し経ったあと。
左手一本でロープを支えながら、男は残った右手一本で砂地のモンスターを排除してみせた。
ミラも多少援護していたが、ほとんどすべて男が1人で片付けた。
見慣れない男の武器。接近戦型だと思ったのに違っていた。
チャクラム
男は投擲武器の名手だった。
予想以上の圧倒的な強さを見せつけられた。
この男には勝てないと風屡は思った。
「ようやく素直になったな、お嬢ちゃん」
男はにっこりと笑った。
さてと・・・・ つぶやきながら男は荷物を持った。
立ち去ろうとする男に風屡は声をかけた。
「待って。一つだけ教えてちょうだい!」
怪訝そうな顔をして振り返った男に、風屡はこういった。
「貴方いったい何歳なのよ。人をお嬢ちゃん扱いするなんて失礼すぎるわ!」
「はっはっはっはっは!」
男は大笑いした。声をあげて笑った。
─────笑うなんて失礼よ!!
そういう風屡をみてさらにおかしそうに笑った。
ひとしきり笑って、笑いが収まったころ、ようやく男は言葉を発した。
「10歳だ」
「えっ!!」
驚く風屡に対して男はさらに畳み掛けるようにこう言った。
「・・・・・俺がそういったら、お嬢ちゃんは信じるか?」
風屡は首を横に振った。
男は頭をかきながらさらにこういった。
「お嬢ちゃんも知っているだろう?この遺跡には『訳あり』のやつが多い。
そもそも、招待状一枚で胡散臭い遺跡に来るような連中だ。
どんな過去を持っているのか知れたもんじゃない。 だからな・・・」
そこで言葉を切った男は荷物を背負いなおして続けた。
「だからな、お嬢ちゃん。人の言葉を信じるな。
自分の目で見たこと。感じたことを信じるんだ。
ここでは何がおきてもおかしくない。真実を見つめる目を養うことだ。
それが出来ないなら・・・・・お嬢ちゃんは家に帰った方がいい。」
そういうと男は背中を向けた。そして・・・
「俺の年が知りたければ真実を見抜け。・・・見抜けないなら10歳だと信じていればいい。」
その言葉を残して、ふっと男は消えた。
「10歳なんて信じられるわけないじゃない・・・・ ばか。」
風屡が男と再会し、真実を知るまでにはまだまだ多くの時間が必要だった。
二十四人目のお題:「真実」 1096 風屡
砂地を日除けのマントを纏って歩いていた風屡は強い風の気配を感じた。
いつも一緒にいるライオンも低い唸り声を上げている。
こんな何もない場所で砂嵐に巻き込まれると辛い。
少し離れた場所に石造りの遺跡をみつけ、風屡は走った。
ライオンもぴったりとついてくる。
石造りの壁の影に飛び込んだ瞬間、強い風が吹いた。
サンドストーム
この広大な遺跡の中で何度かこの現象に出合った。
約30分ほどの嵐を、ある者は魔法防壁を作って防ぎ、ある者は地の中にもぐって避けた。
ある者は砂の舞い上がらないほど高い天空で風のみと闘い、
そして風屡のように地を歩む者は遺跡の影に隠れて嵐の過ぎるのをじっと待った。
所詮は遺跡の中の嵐
最初のうちは大したことないだろうと舐めてかかったものもいた。
だが、30分もの間、砂を叩きつけられて立っていられるものなどいない。
砂漠を旅することも多かった風屡は、最初にサンドストームにあった時から油断しなかった。
遺跡の中とはいえ、舞い上がる砂の量が半端ではなかったからだ。
この遺跡は確かに作り物かもしれない。
まがい物かもしれない。
だが、風に舞い上がったあの砂の量は間違いなく真実だ。
風屡のようにそれを見切ったものだけがこの地の最初の洗礼を何事もなく切り抜けた。
見切れずに砂地で強行した者達・・・彼らはサンドストームが去った後、体勢が整う前にモンスターに襲われて、一時的に遺跡外に撤退することすら余儀なくされた。
そして、今日も風屡は遺跡の影でサンドストームをやり過ごそうとしていた。
この遺跡には少しだけ屋根が残っており、サンドストームをやり過ごすのもいつもより楽だ。
この嵐のあとにはモンスターの襲撃があることが多い。
風屡はマントを脱いで弓矢と吹き矢の手入れを始めた。
「ほう」
今まで誰もいないと思っていた遺跡の中にもう1人何者かがいることに風屡ははじめて気がついた。
共にいるライオンが低い唸り声でけん制する。
「そんなに怒るなよ。せっかくの美人が台無しだ。」
遺跡の奥から出てきたのは見知らぬ男。
装備から考えて接近戦タイプのソルジャーだ。得物はよくわからない。
ライオンが風屡と男の間に立ちはだかる。
だが、男は何気ない動きでライオンの飛びかかれる守備範囲のぎりぎり外で止まり、ポケットから出したタバコに火をつけた。
間合いを完全に見切っている。相当な熟練者だ。
油断できぬ相手・・・・。
風屡は気を溜める。一瞬も気が抜けない危険な相手だと感じた。
飄々とした男はタバコを吸いながらにやにやと笑って風屡をじろじろと見つめている。
「貴方・・・何者!」
緊張に耐えられなくなって、風屡から声を発した。
ひゅぅ
口笛を吹いた男はにやっと笑った。
「まるで仔猫みたいだな。そんなに気を荒げるな。可愛い顔も可愛い声も台無しだ。」
「なっ!!」
「そんなに心配しなくてもいい。どんな美人でも成熟していないお子ちゃまに手を出すつもりはない」
風屡はお子ちゃま呼ばわりされたことに、少し気分を害した。
だが・・・・明らかに男の方が上手だ。
年齢は不詳だが、落ち着いた物腰は年下には思えない。
30代後半・・・・ううん・・・40代かしら?
悔しいが男から見れば、確かに風屡などまだまだ青いといわれてもしょうがないだろう。
それにこの男の余裕たっぷりの所作。
先ほどからずっとライオンに牽制されているのに、それを気にする様子はない。
おそらく・・・・彼が本気になればライオンとて一撃で倒せるのだろう。
そんな余裕が感じられる。そしてそれをライオンもわかっている。
緊張していたため、何時間にも感じられた。
だが、男は先ほど火をつけたタバコをまだ吸っている。
ほんの数分しか経っていないのだろう。
その時間が永遠にも感じられた。
ようやく男がタバコを吸い終わり、吸殻を靴の底でもみ消して・・
「今日の嵐は短かったな・・・」
とポツリとつぶやいた。
言われて風屡も気がついた。
サンドストームが収まろうとしている。
それも始まったときと同様に急速に。
「先に行く。頑張れよ、お嬢ちゃん」
声に気づいて男のほうを見ると・・・・男はすでに風屡の入ってきた遺跡の隙間から出て行くところだった。
ほんの一瞬でライオンと自分の横をすり抜け、外へと出て行った男。
強い・・・・・
この遺跡にはたくさんの強者がいると知っていたが、風屡は格の違いを見せつけられた気分だった。
「次!!」
サンドストームが収まると、案の定、雑魚モンスターたちが襲い掛かってきた。
嵐が収まってから合流したミラとともに迎撃する。
ライオンと風屡に魅了されたスケルトンが、敵を風屡の吹き矢の射程内におびき寄せる。
そこを風屡とミラで叩きつぶす。
これが風屡とミラの戦い方。
だが、それはちょっとした油断で起こった。
追い詰められた敵がスケルトンに飛び掛り、その瞬間、別の敵の光魔法がスケルトンを直撃。
スケルトンが消え・・・・スケルトンに飛び掛った敵はその後ろにいた風屡にそのままぶつかった。
足場は砂地。
足を取られて倒れこんだ風屡は流砂に巻き込まれた。
「!」
とっさに弓に矢をつがえて、矢を放つ。
矢にはロープついており、何かに引っかかってくれさえすれば流砂から逃れられる。
だが、何もない砂地に立ち木などなく、矢はぽとりっと落ちて、そのままロープごと流砂に流れそうになる。
ミラが絶望の声をあげたそのとき
男の腕がロープをがしっと握り締めた。
「上がって来いよ。お嬢ちゃん」
いけ好かない、油断のならない・・・・だけど自分よりも遥かに強いあの男がそこにいた。
「さっきはありがとう」
風屡が礼を言ったのはそれから少し経ったあと。
左手一本でロープを支えながら、男は残った右手一本で砂地のモンスターを排除してみせた。
ミラも多少援護していたが、ほとんどすべて男が1人で片付けた。
見慣れない男の武器。接近戦型だと思ったのに違っていた。
チャクラム
男は投擲武器の名手だった。
予想以上の圧倒的な強さを見せつけられた。
この男には勝てないと風屡は思った。
「ようやく素直になったな、お嬢ちゃん」
男はにっこりと笑った。
さてと・・・・ つぶやきながら男は荷物を持った。
立ち去ろうとする男に風屡は声をかけた。
「待って。一つだけ教えてちょうだい!」
怪訝そうな顔をして振り返った男に、風屡はこういった。
「貴方いったい何歳なのよ。人をお嬢ちゃん扱いするなんて失礼すぎるわ!」
「はっはっはっはっは!」
男は大笑いした。声をあげて笑った。
─────笑うなんて失礼よ!!
そういう風屡をみてさらにおかしそうに笑った。
ひとしきり笑って、笑いが収まったころ、ようやく男は言葉を発した。
「10歳だ」
「えっ!!」
驚く風屡に対して男はさらに畳み掛けるようにこう言った。
「・・・・・俺がそういったら、お嬢ちゃんは信じるか?」
風屡は首を横に振った。
男は頭をかきながらさらにこういった。
「お嬢ちゃんも知っているだろう?この遺跡には『訳あり』のやつが多い。
そもそも、招待状一枚で胡散臭い遺跡に来るような連中だ。
どんな過去を持っているのか知れたもんじゃない。 だからな・・・」
そこで言葉を切った男は荷物を背負いなおして続けた。
「だからな、お嬢ちゃん。人の言葉を信じるな。
自分の目で見たこと。感じたことを信じるんだ。
ここでは何がおきてもおかしくない。真実を見つめる目を養うことだ。
それが出来ないなら・・・・・お嬢ちゃんは家に帰った方がいい。」
そういうと男は背中を向けた。そして・・・
「俺の年が知りたければ真実を見抜け。・・・見抜けないなら10歳だと信じていればいい。」
その言葉を残して、ふっと男は消えた。
「10歳なんて信じられるわけないじゃない・・・・ ばか。」
風屡が男と再会し、真実を知るまでにはまだまだ多くの時間が必要だった。
二十四人目のお題:「真実」 1096 風屡
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